孤立を深めるロシア政権:プーチン政権から距離を置く盟友たち
1年半前、大方の予想を裏切ってウクライナ侵攻を開始したプーチン大統領。しかし、その判断がロシアにとって想定以上に高くついたのは間違いない。しかも、ロシアはいまだ当初の目的を果たすことができていないのだ。
クレムリンは国際社会で孤立を深めており、かつてプーチン大統領と親交を結んだ同盟国の指導者や各国の盟友たちからも距離を置かれる事態となっている。
ドナルド・トランプ元米大統領が親プーチン派であることは周知の事実だ。ウクライナ侵攻が始まった当初、トランプ元大統領はバック・セクストンとクレイ・トラヴィスが司会を務めるラジオ番組に出演し、プーチン大統領を「天才だ」と称賛したことは有名だ。
ところが、その後はさしものトランプ元大統領も立場を翻し、保身を図っている。実際、『ショーン・ハニティ・ショー』に出演した際には、「私の知っているプーチン大統領とは変わってしまったようだ」とコメントしている。
写真:ショーン・ハニティとトランプ元大統領(2018年)
FOXニュースのコメンテーターとして、米国一視聴者の多いケーブルテレビニュース番組を司会するタッカー・カールソンも親プーチン派として有名だ。2019年11月には、「ウクライナとロシアの戦争について、なぜ私が気を揉まなくてはならないのか?しかも、どうしてロシアを擁護してはいけないのか?」と述べているほどだ。
さらに、ウクライナ侵攻が始まる数日前には、プーチン大統領を悪く言う人々に番組内で反論した:「プーチン大統領が私を人種差別主義者だと非難したことがあるだろうか?意見が一致しないからといって、解雇をちらつかせたことがあるだろうか?」
以来、FOXニュースの面々はカールソンを筆頭に、それまでの編集方針とは距離を置こうとしているようだ。
『ガーディアン』紙によれば、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務相はFOXニュースについて、主流メディアに代わる選択肢だと賞賛したとされる。
米国および西欧が牛耳る世界秩序に対抗するためと称して、世界中から反欧米派を結集しようと試みるプーチン大統領。
ところが、反欧米の立場では一致する同盟国であっても、ウクライナ侵攻以降はプーチン政権と距離を置こうとする動きが目立つようになっている。
かつてプーチン大統領寄りだと考えられていたハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相だが、ウクライナ侵攻についてはEU諸国と足並みを揃え、ロシア非難に回った。
ウクライナ侵攻が始まって数日後にAP通信が伝えたところによると、ハンガリーのシーヤールトー・ペーテル外相は「ハンガリーの立場は明確です。ウクライナ領土の一体性と主権を支持します」という声明を発表したという。
しかし、ハンガリーのオルバン首相は、ウクライナ支援の動きを阻止したり欧州議会の汚職を非難したりするなど、欧州連合(EU)の立場とは一線を画している。
チェコのミロシュ・ゼマン大統領もまた親プーチン派のEU首脳として知られており、ウクライナ侵攻に先立ってロシア軍が国境地帯に終結した際も最後まで戦争にはならないと主張していた。
しかし、AP通信によれば、ウクライナ侵攻が始まるとゼマン大統領も「ロシアは平和に対する犯罪に手を染めた」と立場を翻したという。そして、それまでプーチン大統領を支持していたことについて「過ちだった」と公言している。
旧ソ連諸国の1つとしてロシアに対する依存度も高いカザフスタンだが、ウクライナ侵攻についてはプーチン政権と距離を置こうとしているようだ。実際、同国最大の都市アルマトイで発生したウクライナ支持デモを、カザフスタン政府が弾圧することはなかった。
『ビジネス・インサイダー』誌の報道によれば、カザフスタンは戦争反対の姿勢を見せて西側諸国との関係強化を図りつつも、対露関係の維持を試みているようだ。
写真:プーチン大統領と当時カザフスタンの大統領だったヌルスルタン・ナザルバエフ(2018年)
一方、ロシアと経済的な繋がりの深いトルコは、NATO加盟国でありながら両陣営の間でうまく立ち回っている。
米NPR放送は、ウクライナ侵攻によって西側諸国の企業がロシア市場から撤退したことを受け、トルコが2022年にロシアとの貿易額を倍増させた、と報じている。
一方、ウクライナに対してトルコ政府は武器と装甲車の提供を行っているのだ。
トルコと同じような立ち回りに努めているのがインドだ。インドはロシアと伝統的に友好関係を保っており、ナレンドラ・モディ政権のもと両国関係はますます深まっていた。
『フィナンシャル・タイムズ』誌によれば、ロシアのウクライナ侵攻に対するインドの「のらりくらりとした態度」は、西側諸国の苛立ちを掻き立てる原因になっているという。
インドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相は、2022年9月の国連総会で、「ウクライナの紛争が激化する中、インドは立場を明確にするよう求められることが増えた」と述べた。
そして「インドの立場は平和擁護であり、揺らぐことはない。対話と外交のほかに解決策はないというのが我が国の立場だ」と続けた。
一方、ウクライナ侵攻を非難することで自国の利益を守ろうとする、かつての同盟国も後を絶たない。ドイチェ・ヴィレ放送によれば、ブラジルのジャイル・ボルソナーロ前大統領は開戦直後にブラジルの立場として「中立」を掲げたという。
同放送はまた、ボルソナーロ前大統領が開戦数日前にプーチン大統領を訪問していたことを報じた。一方、当時の副大統領ハミルトン・モウランはロシアの軍事行動を強く非難し、ウクライナ支援を呼び掛けたという。
ルーラ・ダ・シルヴァ大統領率いる新政権のもと、ブラジルの外交政策がどのような方向転換を見せるのかについては、いまだ明らかになっていない。
一方、南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領はプーチン大統領との連帯を強調。ロイター通信によれば、ラマポーザ大統領はNATOの拡大こそ今回の戦争を引き起こした原因だと主張するとともに、ロシア非難に傾く国際世論には同調しないと断言したとのこと。
ロイター通信によれば、ラマポーザ大統領は2022年3月17日に議会の場で、「NATOの東方拡大は地域の不安定化につながるというロシア側の警告に、NATO加盟国の指導者たちが耳を傾けていれば今回の戦争は回避できたはずだ」と述べたという。
写真:南アフリカを訪れるプーチン大統領(2006年)
フランス24放送によれば、アルゼンチンのアルベルト・フェルナンデス大統領は2月初旬、プーチン大統領に対して同国が「ロシアとラテンアメリカの窓口」の役割を果たすと説明したという。しかし、3月2日に行われた国連総会のロシア非難決議ではブラジルとともに賛成票を投じている。
しかし、情勢のカギを握るのは習近平国家主席率いる中国の動きだ。習主席はかつてプーチン大統領を「親友」であると述べており、国際情勢の中で協力し合ってきた過去があるのだ。
しかし、ロイター通信によれば、2022年11月に中国政府は核兵器使用に反対する声明を発表。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はこれについて、「重みのある発言だ」とコメントした。
とはいえ、ロシアと中国は2023年7月に日本海で合同軍事演習を実施、両者の同盟関係は今後も続く見通しだ。