寝ているときに耳にゴキブリが侵入:各国で報告された事件の顛末とは
悪夢のように聞こえるかもしれないが、夜中にゴキブリが耳に忍び込むケースは後を絶たない。実際、南アフリカで行われた調査によれば、耳から摘出された昆虫として最多だったのはゴキブリだという(1つの病院で2年間に10件)。では、その恐ろしい実態と、このようなケースが起きてしまう理由を見てゆくことにしよう。
最近、シンガポールのティックトッカーが、寝ている最中にゴキブリに耳に侵入されるという、恐ろしい体験を映像で記録した。パニック状態で目を覚ました彼女が「耳を強く叩いた」せいで、ゴキブリはさらに奥に逃げ込んでしまう事態に。耳の中でうごめくゴキブリを感じつつ、最終的にリステリンで退治したというティックトッカーだが、死骸を引き抜こうとしたところバラバラになってしまい、病院に駆け込む羽目になったという。
画像: Nadia.Limzq/TikTok
ゴキブリの死骸を病院で取り出してもらうのは、不快かつ辛い経験だったようだ。いわく、医師が「バラバラになったゴキブリの死骸を鉗子で耳から取り出したとき」には気絶しそうだったとのこと。
画像:Nadia.Limzq/TikTok
一方、2022年11月には、英TV番組『I'm a Celebrity... Get Me Out of Here!』で元女子サッカー選手のジル・スコットが、無数のゴキブリを使ったとんでもない挑戦のせいで、ゴキブリを耳に詰まらせている。
画像:『I'm a Celebrity... Get Me Out of Here!』 (Series 22) / ITV1
控えていた医療スタッフがジルの耳に消毒液を垂らした時、ジルは「うわ……今、私の頭の中にゴキブリがいる。気持ち悪い」とコメント。結局、ゴキブリは医療スタッフの手によってピンセットで取り出されたという。しかし、別のシーズンには、セレブの鼻にゴキブリが潜り込んでしまうケースもあったようだ。
画像:ジルの耳から取り出されたゴキブリ。『I'm a Celebrity... Get Me Out of Here!』 (Series 22) / ITV1
ゴキブリがはびこるアパートで暮らしていたフロリダ州在住のブレイク・コリンズの場合、真夜中にゴキブリが耳に何かを詰め込む感覚で目を覚ましたという。ブレイクは『Tallahssee Democrat』紙に対し、「何者かが私の頭に綿棒を押し込んでいるような感覚でした。しかし、それを阻止する方法はなかったのです」とコメント。
ブレイクが病院に駆け込むと、医師は注射器で局部麻酔薬のリドカインを耳に注入。この時の経験について、ブレイクは「頭の中で息絶えるのがわかりました。リドカインが注入されるとゴキブリは大暴れして脱走を試みたんです。そして、弱弱しいきしみを上げると2分後には動かなくなりました」と回想している。なんと、死の間際に耳の中で卵まで産んでいたというから驚きだ。
同じくフロリダ州で暮らすケイティ・ホリーも、『Self』誌に悪夢のような体験を語っている。耳に何かが侵入したのを感じて目を覚ましたケイティは、綿棒を使って正体を確かめようとしたのだという。いわく:「綿棒を取り出してみると、先っぽにこげ茶色の細い破片が2つくっついていました。すぐに、それが昆虫の脚であることに気づきました」
画像:Katiejholley / Instagram
過呼吸になりながら夫に確かめてもらうと、「ゴキブリが私の頭に潜り込もうとしていた」ことが判明。ケイティは夫にピンセットで取り出してもらおうとしたものの、脚が何本か出てくるばかり。そこで2人は救急外来に駆け込み、ゴキブリを除去してもらうことになった。
画像:Katiejholley / Instagram
ところが、ゴキブリの摘出から9日後、ケイティはいまだに耳の違和感を訴えていた。再び病院を訪れた彼女を診察した医師たちは、ゴキブリの残骸がまだ残されているのを発見してぞっとしたという。しかも、「頭部全体と胸部、脚や触覚」まであったとのことで、ケイティはいまだにゴキブリの残骸が耳に詰まっているのではないかという妄想にとらわれることがあるという。
1985年には『New England Journal of Medicine』誌が、両耳にゴキブリが詰まった患者の例を報告。医師がリドカインを注入するとそのうちの 1 匹が「逃げ出そうとして猛スピードでもがき」、外に飛び出してきたという。
1993年に行われた調査によると、あるロサンゼルスの病院では1年間で患者たちの耳から98の異物が摘出されたという。なかでも最も多かったのは、異物のおよそ半数(48)を占めるゴキブリだった。その他の異物にはパンや綿、ニンニク1片、ポップコーンの粒などがある。
画像:「Can a Cockroach Get Stuck in Your Ear? | How Common Is It?」『SELF』/ YouTube
ノースカロライナ州立大学の昆虫学者コビー・ショール氏は『ナショナル・ジオグラフィック』誌に対し、耳垢がゴキブリのおやつになってしまっている可能性を指摘。耳には揮発性脂肪酸を作り出すバクテリアが潜んでおり、その匂いによってゴキブリが惹きつけられてしまうというのだ。同様に、鼻水もゴキブリを惹きつける可能性があるが、実際にゴキブリが鼻に侵入するケースは耳に比べると稀だとされる。
同氏はまた、ニュースサイト「ザ・ヴァージ」上で、ゴキブリが人間の耳を好む理由について、狭くて居心地がよく、湿度が高く暖かいためだとした。いわく:「耳の中は食事と休息を安全に行うことができる場所なのです」
ゴキブリは夜行性で、活発に動き出すのは夜間だ。寝ている最中にゴキブリが耳に侵入するケースが多いのはこのためである。
『ナショナル・ジオグラフィック』が公開した動画では、ゴキブリが柔軟な外骨格を利用して体高のわずか4分の1ほどの隙間に侵入する様子が捉えられている。そして、外耳道や副鼻腔といった空間は、想像以上に広いのである。
画像:「Cockroaches Survive Squeezing, Smashing, and More」, 『National Geographic』/YouTube
ゴキブリが耳に侵入してしまった場合、つついたりひっかいたりして奥に詰まらせてしまうケースが良く見られる。したがって、押し込んで鼓膜を傷つけてしまうリスクを避けるためにも、綿棒やピンセットで除去を試みるのはやめよう。
侵入したゴキブリを自分で殺虫しようとすると、たいてい耳の中で粉々になってバクテリアを撒き散らす結果になってしまう。一方、医療機関ではゴキブリを除去する前に油脂やリドカインを利用するが、こういった化学物質はゴキブリの排泄や嘔吐を促すこともあるという。前出のショール氏いわく、この過程でゴキブリは「バクテリアや真菌類などありとあらゆる病原体を放出する」とのこと。
画像:Nowshad Arefin/ Unsplash
そしてこれこそが、耳に詰まったゴキブリを病院で除去してもらったほうが良い理由だ。医療機関では処置後に耳をきれいにしてくれるほか、抗菌点耳薬や経口抗生物質も処方してくれるのだ。
耳に侵入するゴキブリとしてもっとも一般的なのはチャバネゴキブリだ。本種は体長1.5センチメートルほどで、食物と水がなくてもおよそ1週間生き延びることができるという。一方、下水道などに棲息するワモンゴキブリの成虫はかなり大型になるため、耳に侵入することはない。
『ナショナル・ジオグラフィック』によれば、ゴキブリの侵入は不快なものだが、目や尿道、直腸にまで寄生するヒルに比べればまだマシだという。なかでも、ペルーで発見された巨大な歯をもつヒル「Tyrannobdella rex」(写真)は、非常に厄介な相手だ。
画像:Anna J. Phillips, et al / Public Library of Science (PLOS)