戦勝記念日までに戦果をアピールしたいプーチン政権、ウクライナ東部のチャシウ・ヤル占領を狙う
2024年2月にアウディイウカを制圧したロシア軍は、新たな標的としてウクライナ東部の村落チャシウ・ヤルに狙いを定めている。しかし、一部報道によれば戦勝記念日(5月9日)までに同地を占領するため、例によって強引な力攻めを試みているようだ。
ウクライナ軍のオレクサンドル・シルスキー総司令官が4月14日に述べたところによると、クレムリンは戦勝記念日までのチャシウ・ヤル占領を目指しているとされる。
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シルスキー総司令官はTelegram投稿でウクライナ東部の戦況について「著しく悪化している」と説明し、ロシア軍は目標達成が可能だとの見方を示していた。
シルスキー総司令官のコメントを報じたロイター通信によれば、チャシウ・ヤルはロシア軍が2023年5月に占領したバフムートのすぐ西側に位置するという。
シルスキー総司令官はウクライナにとって同国東部の戦況は思わしくないと述べ、ロシア軍がチャシウ・ヤルを経てクラマトルスクに到達するおそれがあると警告。しかし、今のところ、ウクライナ軍は部隊を増強してロシア軍の進軍を食い止めている。
『キーウ・インディペンデント』紙によれば、シルスキー総司令官は同地の現状について、「我が軍の部隊は文字通り地に這いつくばって敵の攻撃を毎日押しとどめており、この英雄的な働きのおかげで敵の計画は阻まれています」とコメントしたとのこと。
戦勝記念日までにチャシウ・ヤルを占領して戦果を誇示したいプーチン政権。ロシア軍がその目標を達成できるかどうかは今のところ不透明だが、ウクライナにとって厳しい状況であることには変わりない。
ウクライナのルステム・ウメロウ国防相はロシア軍がウクライナ東部で戦線を突破しようと試みていると明かし、4月15日には一帯を巡る情勢は緊迫しているとFacebook上で指摘した。
『ウクライナ・プラウダ』紙はウメロウ国防相のコメントとして、「東部戦線の部隊を訪問してきました。状況は緊迫しています。敵は国防軍の陣地に向かって進軍を試み、バフムート西方の防衛線を突破すべく戦力を集中させているのです」と伝えている。
同国防相はさらに、「ロシア軍は数的優位に立っています、しかし、ウクライナは先端システムを使いこなす守備隊の勇気と訓練、プロ意識のおかげで、敵の計画を阻んでいます」とした。
ロシア軍がチャシウ・ヤルを占領できるかどうかは未知数だ。しかし、ウクライナ軍の防衛線突破を目指す大規模な攻勢の一環として、この村落の占領を目指すのは理にかなっている。というのも、チャシウ・ヤルは戦略的に重要な位置にあるのだ。
フィラデルフィアに拠点を置くシンクタンク「外交政策研究所(FPRI)」の上級研究員、ロブ・リー氏は4月12日のX投稿で「これはおそらく重要な戦いになるでしょう。チャシウ・ヤルは高台の上にあり、防衛しやすいのです」と解説。
リー氏いわく、ロシア軍はチャシウ・ヤルに接近しており、「ロシア軍がこの集落を占領すれば、夏季攻勢の一環としてドネツク州での進軍ペースを上げるかもしれません」とのこと。
同氏はさらに、「ロシア軍が街を占領するためには運河を越えなくてはなりませんが、すでに南東部の運河に到達しています。(ウクライナ軍にとっては)弾薬の即時増配がカギとなる可能性があります」とした。
一方、戦争研究所もチャシウ・ヤルがロシア軍にとって重要な村落であると指摘。ここを占領すれば、ロシア軍はウクライナ軍が要塞化した防衛拠点へ直接攻撃を加えることができるようになるためだ。
同研究所が4月13日に発表した最新情報によれば、「ロシア軍はチャシウ・ヤルを占領したのち、補給を行ってドルジュキーウカまたはコスティアンティニウカを直接攻撃する作戦に乗り出す可能性がある」とのこと。
戦争研究所のアナリストらによれば、ドルジュキーウカとコスティアンティニウカは「ドネツク州およびウクライナ東部防衛の要」であり、ここが危うくなるのは「作戦上非常に重大」だという。
チャシウ・ヤルを占領できれば、ロシア軍はさらなる攻撃への足掛かりを得ることができるほか、物資不足に悩まされるウクライナ軍を東部戦線で窮地に追い込むことも可能だ。さらに、戦勝記念日前までに占領して戦果をアピールできれば、プーチン政権にとって政治的にも大きな意味を持つだろう。
ところが、シルスキー総司令官の発言から2週間が経った今もチャシウ・ヤルがロシア軍の手に落ちる気配はない。4月21日に英国国防省が行った発表によれば、ロシア軍は「一帯をゆっくりと前進する」に留まっているようだ。
ただし、ロシア国防省は4月21日にTelegram投稿を通じて自軍の進軍は止まっていないと主張。ロイター通信によれば、同省はチャシウ・ヤルから5キロメートル地点にある村、ボフダニウカの制圧を発表したという。
ロシア国防省によれば「(ロシア軍の)南部部隊がボフダニウカの集落を完全に開放し、前線付近の状況を改善した」とのこと。
ボフダニウカは隣接する主要都市クラマトルスクおよびスロヴャンシクを防衛する上でカギを握る。しかも、要塞化された丘の頂上にあるため、ロシア国防省の主張が正しければ、ロシア軍はチャシウ・ヤル占領に向けて有利な拠点を得たことになる。
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