プーチン政権の数々の失策が明らかに:装備不足のまま投げ出される兵士たち
プーチン政権によるウクライナ侵攻が始まるまで、ロシアは世界第2位の軍事大国であり米軍に匹敵する作戦遂行能力を誇るとされていた。
ところが、ウクライナに対する「特別軍事作戦」はすぐに停滞、ロシア軍の抱える問題が明るみに出ることとなった。さらに、『ニューヨーク・タイムズ』紙の最新報道によって、ロシア軍が犯した取り返しのつかない失策の数々が見えてきた。
ウクライナ侵攻の勃発から数週間後には、戦場に送られたロシア兵たちの大半は自身がウクライナ軍との戦闘のために派遣されたことを知らなかったと、各国の報道機関が伝えた。
2022年3月7日には『インサイダー』誌のミア・ヤンコヴィッチ記者が、「ウクライナ侵攻作戦を遂行しているロシア兵たちの大半は戦争に向かうということを知らされておらず、彼らを待ち受ける事態について嘘を教えられていた、という証言が増えている」と報じている。
3月に行われた『ニューヨーク・タイムズ』紙の調査によれば、捕虜となったロシア兵および将校の中には、ウクライナとの国境地帯に派遣されたことについて単なる軍事演習以上の理由があるとは知らない人も少なくなかったという。
同紙のアンドリュー・クラマー記者は、「(ドミトリー・)コワレンスキー中尉は、戦車部隊が移動し始める前夜にようやくロシアがウクライナに侵攻することを知らされたと語っている」と伝えた。
クラマー記者はさらに、「軍曹以下の階級の兵士に至っては、国境を越えるまでどこに向かっているのかすら伝えられなかった」と付け加えている。
しかし、ロシア兵たちの多くが適切な装備なしで派遣されていたという事実に比べれば、開戦の事実を知らされていなかったことなどとるに足りない。
プーチン政権の失策について『ニューヨーク・タイムズ』紙が行った調査によれば、ロシア兵たちはわずかばかりの食料や弾薬もなしで戦場に派遣されたと見られ、携行した武器の取り扱いをWikipediaで学ぶケースすらあったという。
また、侵攻初期には適切な地図を与えられておらず、旧ソ連時代の古い情報に頼らざるを得なかったようだ。
実際、英国紙『イブニング・スタンダード』とのインタビューの中で元英国海軍のアラン・ウェスト提督は、「かなりの数のロシア兵たちが古い地図情報に頼らざるを得なかったことが分かっている」とコメント。
さらにウェスト提督は、「場合によっては1970年代の地図情報を利用しているケースもあったが、もちろん、現在のロシア軍の攻撃対象が載っているはずがなかった」と付け加えている。
そして、通信に適切な暗号化がなされていなかったことや、作戦立案に個人所有の携帯電話が利用されていたことも、ウクライナに展開するロシア軍にとって大きな問題となっていた。
『ワシントン・ポスト』紙のアレックス・ホートン記者、シェーン・ハリス記者によれば、「ウクライナに展開するロシア軍はスマートフォンやトランシーバーといったセキュリティ対策の不十分な通信機器に依存しているケースが驚くほど多かった」とされている
両記者はまた、携帯電話やトランシーバーの使用によって、ロシア軍部隊は「狙われる確率が高まり(……)指揮統制の欠如がさらに浮彫になる形となった」と解説した。
『ニューヨーク・タイムズ』紙の報道によれば、ロシア軍は戦略目標の達成に関する現実的でない予定を課されていたという。
けれども、ウクライナ侵攻によって明らかになったロシア最大の問題は、軍内部のあらゆるレベルで長期にわたって汚職がはびこっていたということだ。
『USニューズ&ワールド・レポート』誌のポール・シンクマン記者は、「腐敗の蔓延によって戦車の装甲ばかりか、戦闘に携わる兵士の数まで誤魔化されてしまっている」とした。
さらに、「(ロシアは)最前線の部隊に装備を輸送する能力が欠けていたことに加え、司令官たちは監督下の兵員や予備役、装備品の状態について正しい情報を伝えることもままならなかった」という。
数十年間におよぶ汚職の結果、2022年2月に開戦した際のロシア軍にはその任務をこなす態勢が整っていなかったのだ。
つまり、ロシア軍の兵士たちは本当の任務を知らされないまま、適切な装備や訓練なしで戦場に派遣された上、数十年前の地図を利用して隣国を占領することが求められていたのだ。計画がずさんだったと言わざるを得ない。