新型コロナウイルス:そもそも患者第1号は誰?
新型コロナウイルスが発生した経緯は今のところよくわかっていない。研究施設から流出したウイルスが世界的流行の原因になったという疑惑も米国などでは囁かれているが、科学者たちの間で有力視されているのは、コロナウイルスが動物からヒトに感染したという説だ。ところで、新型コロナウイルスの患者第1号は誰だったのだろう?『サイエンス』誌はこの疑問に答える記事を発表した。
かねて、世界保健機関(WHO)は2019年12月に確認された症例を新型コロナウイルスの患者第1号であると認定してきた。しかし、会計士として働くこの中国人男性は新型コロナウイルスの発生源として有力視されている武漢華南海鮮卸売市場(写真)とは何の関係もない。アメリカ人研究者マイケル・ウォロビーが『サイエンス』に寄稿した記事はWHOの立場を否定するものであり、患者第1号は問題の市場で働いていた人物だと主張している。
『サイエンス』は、12月に奇妙な侵襲性肺炎で病院に運ばれた患者のデータを分析することにより、武漢華南海鮮卸売市場で働いていたある女性店員こそ新型コロナウイルスの患者第1号であると結論づけた。
大流行の始まりは 2019年12月11日、中国の武漢だった。『サイエンス』の記事によればその日、先ほど触れた女性店員が病院に入院したのだ。以降、急速に症例が増えることになる。
『サイエンス』誌の記事が強調するのは、問題の市場で生きたままの野生動物が取引されており、これが新型コロナウイルスの発生源になったということだ。世界保健機関(WHO)が認定した患者第1号は市場から離れた場所で生活しており、パンデミックの起源とするには根拠が薄い。しかし、『サイエンス』誌によれば、市場で取引されていた野生動物の中にコロナウイルスを保菌しるものがあった可能性が非常に高いという。
実際、感染源の特定と市場の閉鎖に時間がかかってしまったことが、新型コロナウイルスの世界的大流行につながった可能性があるという。コロナウイルスに感染した野生動物がどのくらい取引されていたのか、今となっては知る由もない。結局、武漢華南海鮮卸売市場は1月1日に閉鎖された。
動物を生きたまま取引する市場はアジア諸国では一般的だが、このやり方には、動物たちから人間にウイルスが感染し、新たな病気を生み出してしまうリスクがあるのだ。
こういった市場では、野生動物の唾液や飛沫、噛み傷などを通してウイルスに感染する可能性があるわけだが、すでに食肉用に処理された動物を食べても通常、ウイルスに感染することはない。
研究者たちはパンデミック発生の瞬間に迫りつつある。しかし、『サイエンス』の記事でも述べられているとおり、世界的大流行の原因となった動物のサンプルが残されていないことが、真相解明のハードルになっているという。
マイケル・ウォロビーが『サイエンス』誌に発表したパンデミックの経緯と分析は、新型コロナウイルス大流行と中国の野生動物市場の関連性を明らかにしただけである。しかし、今後、同様のパンデミックが発生するのを防ぐには、市場のあり方を変える必要があるといえる。
『サイエンス』誌の記事によれば、コウモリから新型コロナウイルスが発生したという説は否定されたという。コウモリスープが原因だという噂はどうやらデマに過ぎなかったようだ。
とはいえ、すべてが解明されたわけではない。患者第1号(およびその家族)が特定されとはいえ、どんな動物から感染したのかは謎のままだからだ。
『サイエンス』誌の記事によると、WHOが患者第1号であると認定した41歳の会計士は、実際には周囲の人から感染していたのではないかという。つまり、その時すでに新型コロナウイルスの感染は拡大しており、患者は他にもいたが、この男性が「最初の発症例」であると考えられただけだというのだ。
パンデミック直後の驚きと大混乱は記憶に値する。2020年1月1日、いつものように正月が訪れたが、当時、中国で奇妙な肺炎が発生しているというニュースが大きく扱われることはなく、気にする人もいなかった。
世界保健機関(WHO)がパンデミックの事実を公式に認めたのは2020年1月30日だった。未知のウイルスが世界を席巻しようとしていたのだ。新型コロナウイルスの脅威が明らかになると、世界は一変した。
2022年の今もまだ大流行は収まっていない。ヨーロッパの一部の国々では新たな流行によって危機的状況が発生する一方、自主隔離や予防接種を拒否する人々がデモを行ったりしている。しかし、予防接種は新型コロナウイルスによる死者ゼロを達成するための最大のカギなのだ。