新首都の建設を計画するインドネシア
ついに、インドネシアが新首都建設の計画を発表しました。 1万7000あまりの島々と2億7000万の人口を抱える東南アジアの大国、インドネシアをジャカルタ(写真)が舵取りする時代は2024年に終わりを迎えるのです。
1000万人もの住民を抱える現首都ジャカルタは、多くの環境問題と過剰な人口に悩まされています。インドネシア政府は首都移転がこの状況の緩和に役立つことを期待しています。
首都移転のもう1つの理由は『ガーディアン』紙の報道にもある通り、地盤沈下です。地下水のくみ上げすぎによってジャカルタはどんどん沈下しているのです。
ジャカルタ市の北部では毎年25 cmのスピードで地盤沈下が進んでいるといいます。インドネシア政府は、ジャカルタ水没を防ぐには400億ドルもの費用がかかると見積もっています。
洪水の頻発はジャカルタの抱える問題のひとつです。
ジョコ・ウィドド大統領は2019年の一般教書演説で首都移転計画を発表していました。しかし、新型コロナウイルスの大流行により、計画は今年まで延期されていたのです。
2022年1月、新首都の名称は「ヌサンタラ」であると大統領が発表。ヌサンタラは古ジャワ語で「列島」を意味します。
この計画では、首都をジャワ島にあるジャカルタからボルネオ島の東カリマンタン州に移転することになっています。
新首都候補地の条件は、地震や火山噴火といった災害の影響を受けにくい場所であることでした。その結果、建設予定地はジャングルに覆われたエリアになりました。
しかし、これは多くの動物、特に霊長類のすみかを奪うことにつながるという批判もあります。
ジャワ島にはインドネシアの人口の半分を占める2億7000万人が居住しています。この島の人口過剰を解決するには首都を島外に移転するほかないのです。
計画では10年以内に首都を完全に移転させることになっています。 BBCによると建設は2022年3月に開始される予定ですが、移転にかかる費用は324億ドルにのぼるといいます。
インドネシア政府は、1960年にブラジルが行った新首都ブラジリアの建設を参考にしています。
ブラジル中部に位置するブラジリアへの移転は、旧首都リオデジャネイロ(写真は1990年代のもの)やサンパウロといった沿岸部の大都市から距離を置き、パワーバランスをとることが狙いでした。
ルシオ・コスタ、オスカー・ニーマイヤー、ジョアキン・カルドゾによって設計された近代的なブラジルの新首都は、上から見ると飛行機の形をしています。
しかし、ブラジリアは実用的でないという批判もあります。たとえば、住民の大半が自動車を持っていることを前提として都市計画が進められたことなどです。
しかし、アジアで首都を新たな計画都市に移した国はインドネシアが最初ではありません。インドネシアの隣国、マレーシアが2001年に行政首都をクアラルンプールからプトラジャヤ(写真)に変更しているのです。
しかし、マレーシア国王と議会はクアラルンプールに留まりました。
写真:The National Palace of Malaysia
一方、ミャンマーは2005年に従来のヤンゴン(写真)からネピドーに遷都しました。ネピドーはビルマ語で「王都」を意味します。
韓国もまた、2030年までには首都機能をソウルから新都市世宗(セジョン)に完全移転させることを計画しています。
韓国の新しい行政首都は、15世紀に数々の改革を行った李氏朝鮮の名君、世宗にちなんで名付けられました。ハングル文字の制定はこの王の功績です。
アフリカにも計画都市として誕生した首都があります。ナイジェリアは1991年に旧首都ラゴス(写真)から新首都アブジャに遷都しています。
ナイジェリアが新首都アブジャを建設したのには理由があります。それは、有力な3つの主要民族の支配地域外に首都を置いて中立を保つことです。
また、同様の先例としては、オーストラリアが行ったキャンベラへの首都移転も挙げられるでしょう。
オーストラリアの2大都市、シドニーとメルボルンは首都の座を巡って争っていましたが、1927年、間を取ってキャンベラに新首都を建設することで決着しました。
しかし、世界一有名な計画都市の首都は、1790年以来アメリカ合衆国の首都を担っているワシントンD.C.でしょう。
ワシントンD.C.は、1814年にカナダから侵攻してきたイギリス軍によって焼き払われたことがありますが、この街が外国勢力の手に落ちたのはこのときだけです。
今日知られているワシントンD.C.が誕生するには数十年の時間が必要でした。 1860年代に国会議事堂のドームが完成したとき、この街にはまだ、ぬかるんだ道路があったほか、基本的な衛生環境も整っていませんでした。
興味深いことに、ワシントンD.C.で政務を執ったことがない唯一の米国大統領は他ならぬジョージ・ワシントンです。