中国の動きに警戒を強めるインド太平洋周辺諸国:日本も各枠組みに参加
4月22日から5月10日にかけて、米軍がフィリピン軍と合同軍事演習「バリカタン」(タガログ語で「肩を組む」という意味)を行った。演習の中心となったのはフィリピン海軍との海上訓練だった。
フィリピンは南シナ海などをめぐって中国との緊張が高まっており、仏放送局「RFI」によると今回の演習には1万6,000人以上の兵士が参加したという。
中国政府は南シナ海の多くの地域で領有権を主張しており、今回もこの軍事演習を非難している。
RFIによると中国の外務大臣は次のような声明を出したという:「フィリピンは自国の安全を脅かしてまで『合衆国の手駒』に成り下がってもよいのか再考すべきである」なんとも高圧的と言うほかない。
今回の演習が中国の反発を招いたのは、初めてフィリピン領海外で実施されたためでもある。中国外務相は「緊張を激化させ、誤った判断を下すリスクを増大させる」としてそのことを批判している。
フィリピンはドゥテルテ前大統領時代には強権的な政策が多く採られて対米関係も悪化したが、新大統領に就任したマルコス・ジュニアはアメリカとの同盟関係の強化に向けて動いている。
アメリカのバイデン大統領は中国海軍が当該地域で積極的に活動していることを指摘、「南シナ海海域でのフィリピン軍の艦船や航空機に対するあらゆる攻撃は、米比相互防衛条約の発動につながる」と釘を刺した。RFIが報じている。
バイデン大統領による先の発言が行われたのは4月11日、米ホワイトハウスで開かれた日米比3カ国首脳会談でのことだった。
近年、中国はインド太平洋地域における権益を拡大しようとする行動を繰り返している。それを受けて、バイデン大統領と岸田文雄首相、そしてマルコス・ジュニア大統領の3名はインド太平洋地域におけるアメリカの支援を再確認した形だ。
会談では、日米の防衛関係を強化することも決定。自衛隊と米軍の連携を強化することや、米軍の装備修繕施設を日本に設置することなどが合意された。
また、岸田首相は会談に先んじて米国連邦議会でも演説を行っている。演説で岸田首相は「ほぼ独力で国際秩序を維持してきた米国」の国民が感じている「孤独感や疲弊」に理解を示しつつ、それに寄り添う国としての日本の立場を表明、「米国のリーダーシップは不可欠」とも述べた。
日米比3カ国首脳会談で出された共同声明では「南シナ海における中国の危険かつ攻撃的な行動について、深刻な懸念を表明」している。
さらに、同じ声明では「南シナ海における埋立て地形の軍事化及び不法な海洋権益に関する主張」に対する懸念も表明されている。
当然と言うべきか、中国は外交部報道官の毛寧(もうねい)を通じて一連の首脳会談に対してコメントを出している。
『Slate』誌によると、毛寧報道官は次のようにコメントしたという:「会談を開催した3カ国は厚かましくも中国の内政に干渉してきており、国際関係を規定する根本的な前提を侵犯している」
また、会談に先立つ4月7日にはオーストラリアも交えた4カ国で、南シナ海での海上共同訓練も実施している。
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訓練に際して4カ国の防衛相会談も実施された。共同発表では会談の目的を「自由で開かれ安全で繁栄したインド太平洋という共通のビジョンを進めるための重要な連携について強調するもの」としている。
2021年にはオーストラリア、イギリス、アメリカからなる、インド太平洋地域での対中国安全保障枠組み「AUKUS」も設定されている。ここに日本も参画することがかねてから検討されており、5月8日には米政府に対しAUKUSと日本の協力に向けて働きかけるよう求める法案が米議会で提出されている。
さらに、日米豪印で形成する同様の枠組み「日米豪印戦略対話(クアッド)」も存在する。
クアッドはそもそも、2004年にインドネシアで起きたスマトラ島沖地震に対する支援でこの4カ国が手を取り合ったことがきっかけとなっている。2019年には初の4カ国外相会談が開かれており、以来インド太平洋地域で勢力を伸ばそうとする中国に対抗するための枠組みとしての性格を持っている。
だが、どうしてインド太平洋地域、なかでも南シナ海でこれほどまでに緊張が高まっているのか。それは、仏ラジオ番組「France Culture」も指摘するように、世界の海上交通の4分の1が中国とベトナム、マレーシア、フィリピンに囲まれたこの海域を通過しているからだ。
中国は歴史的経緯から同地域の領有を主張しているが、フィリピンはそれを不服としハーグの仲裁裁判所に提訴。2016年には中国側の主張を斥ける判決が降った。
だが中国はこの判決を受け入れず、周辺諸国の漁船への妨害行為や、同地域内の島への軍事施設の設置などを繰り返している。
フランスの海洋経済高等研究所(ISEMAR)のポール・トゥレ所長も指摘するように、南シナ海は「領有を主張するあらゆる国にとって戦略的価値があり、放棄してもなにも得るところがない」のだ。「France Culture」が伝えている。
だが、中国はますます強硬な姿勢を強めている上に、アメリカでトランプ元大統領が再選した場合、関与に消極的になる恐れもあり、地域の安定性の先行きは不透明だ。
この地域には同じく中国による台湾有事の可能性も存在する。インド太平洋地域の緊張はいまだかつてなく高まっている。