核武装がウクライナにとって現実的な選択肢に?:トランプ氏再選でNATO加盟には暗雲
いま、ウクライナが岐路に立たされている。米誌『フォーリン・ポリシー』によると、アメリカ合衆国でドナルド・トランプ候補が再選を決めたことで、再び核武装することが安全保障戦略として浮上してきているのだ。
実は、ウクライナが核武装するという発想はそれほど極端なものではない。ソビエト連邦が崩壊した後の1990年代、ウクライナは世界でも有数の規模の核兵器を保有していた事があるのだ。
NPO「Nuclear Threat Initiative」によると、1991年に独立した時点で、ウクライナはおよそ1,900発の戦略核弾頭を、そして2,650~4,200発の戦術核兵器を保有していたという。
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だが、ウクライナはすぐにその核兵器を放棄する。いわゆるブダペスト覚書のなかでウクライナは、米国および英国から特別に安全を保障されることを条件に核兵器を手放したのだ。
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ロンドン大学シティ校のアルド・ザミット・ボルダ准教授はニュースサイト「The Conversation」で1994年のブダペスト覚書と今回のウクライナ侵攻との関係について触れ、プーチン大統領によるウクライナ全面侵攻はブダペスト覚書に違反していると述べている。
ボルダ准教授によると、ウクライナがこのような軍事侵攻を受けることで、自国の独立や主権を守るためには核武装するしかないという考えが世界に広まり、核の拡散につながるとされている。
ボルダ准教授はこう書いている:「安全を保障されていたはずのウクライナがロシアによる侵略を受け、さらに結局は自国だけで防衛にあたっているという光景は、核武装への関心を再び高めてしまう恐れがある」
自衛のための核武装という選択肢が存在することについては、最近ゼレンスキー大統領の口からも語られている。大統領は10月に記者に対して、9月にトランプ元大統領(当時)と会見した際にその意見を伝えた、と述べている。
政治ニュースサイト「ポリティコ」によると、ゼレンスキー大統領はトランプ氏にこう語ったという:「(ウクライナが)米国となんらかの同盟関係を結ばないなら、核武装して自衛するほかない。そして、いまのところ、NATO以外に有効な同盟関係は考えられない」
ゼレンスキー大統領はさらにこう続けている:「NATO加盟国はいま戦争中では無い。NATO加盟国の国民は死んでいない。素晴らしいことだ。だから、我々もNATOを選ぶ。核兵器ではなく」
ゼレンスキー大統領による発言の意図を理解するには、文脈を知っておく必要がある。ゼレンスキー大統領はトランプ氏に対して、ブダペスト覚書による安全保障が機能しなかった経緯を述べ、ウクライナにとっては核武装かNATO加盟しかないということを一歩一歩説明したのだ。
ゼレンスキー大統領によるこの発言は、各所でウクライナがすでに核武装を指向しつつあるという憶測を呼んだ。大統領はそれに対して、同日のうちにNATOのマーク・ルッテ事務総長とともに記者会見を開いて発言の真意を説明している。
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そこでゼレンスキー大統領はこう述べたという:「我々は核兵器を製造してはいない。私が伝えたかったのは、NATO加盟以上に確実な安全保障の手段がないということだ」『フォーリン・ポリシー』誌が報じている。だが、いま、ウクライナにNATO加盟を指向させていた前提が崩れつつある。
トランプ次期大統領はロシアによるウクライナ侵攻の早期終結を目指しており、ウクライナのNATO加盟は先行きが見えなくなりつつある。同誌によると、これはウクライナにとっては受け入れがたいことだという。
同誌のケイシー・ミシェル記者はこう書いている:「もはやウクライナにはNATO加盟を待っている余裕などない」
「ウクライナの独立を守りたいなら、ウクライナをNATOに迎え入れるか、さもなくば(かつて同国がそうであったように)核武装国の一員として受け入れることに備えなければならない。とりわけトランプ氏が再選を決めて以降、このビジョンの現実味は日々増している」