パリ五輪で熱唱:セリーヌ・ディオンが患っているスティッフパーソン症候群とは?
7月26日にパリ五輪の開会式が華やかに開催された。レディ・ガガに始まり世界的アーティストたちがパフォーマンスを繰り広げ、式典の最後にはスティッフパーソン症候群で闘病中の世界的歌姫、セリーヌ・ディオン(56)がエッフェル塔から歌声を響かせた。
セリーヌ・ディオンはかつて、もし自身のドキュメンタリー映画を作るとしたら、人生の良い面も悪い面も包み隠さず描きたいと語っていた。実際、アマゾンプライム・ビデオ配信の『アイ・アム・セリーヌ・ディオン~病との戦いの中で~』を見るとその言葉が守られていることがわかるだろう。
写真:I Am Celine Dion - Prime Video
セリーヌ・ディオンは本ドキュメンタリーを通じ、スティッフパーソン症候群(SPS)を抱えて生きることについて、当事者として語っている。
写真:I Am Celine Dion - Prime Video
スティッフパーソン症候群の特徴は、筋肉の硬直と痙攣の発作である。患者は普通の生活が送れなくなり、生活の質がいちじるしく損なわれる。ドキュメンタリーにはセリーヌ・ディオンが実際に発作に襲われる場面がいくつか収められている。そのような生々しい映像をあえて使うことで、世にあまり知られていない疾患のことをできるだけリアルに伝えようと望んだのだ。
セリーヌ・ディオンはInstagramに投稿した動画のなかで、次のように語っている。「私は自分の人生のこの部分(闘病生活)について、ドキュメンタリーを作ろうと強く思いました。このあまり知られていない病について、世間に広く知らしめ、同じ病に苦しむ患者さんたちの力になりたいと考えたからです」
写真:I Am Celine Dion - Prime Video
スティッフパーソン症候群はとても稀な病気であり、発症するのは100万人に1人の割合である。女性に多く、罹患率は男性の2倍とされる。筋肉の硬直、あるいは痙攣がその典型的な症状である。発作が起きると、患者は一時的に体の自由がきかなくなる。
「遺伝性希少疾患についての情報センター」(GARD)によれば、患者は多くの場合、物音や周囲の急激な動きにたいして知覚が過敏になるほか、感情的にも苦痛を感じやすくなっており、それらの刺激がきっかけとなって筋肉の痙攣が引き起こされるという。
この病気の発症メカニズムについて、その根本的な原因は未だわかっていない。わかっているのは、それが自己免疫疾患であり、患者自身の免疫システムが脳と脊髄の中枢神経系を攻撃しているということだ。
また、GARDによれば、この病を長く患っていると、脊柱が異常な形に歪み、背中が弓形に湾曲するケースもあるという。
スティッフパーソン症候群の患者は、それまで当たり前にできていたことが徐々にできなくなるので、無力感にさいなまれることが多い。そのような無力感は精神を蝕み、うつや不安症といった病を招くこともある。
この病気の治療目標は、筋肉の硬直と痙攣をコントロールし、緩和することである。実際に用いられているのは、向精神薬のベンゾジアゼピン、筋弛緩剤、静注用免疫グロブリン製剤、血漿交換療法(プラスマフェレシス)、がん治療で使われるリツキシマブなどである。いずれにせよ、未だわかっていないことが多い病気で、今後の解明が待たれている。
写真:I Am Celine Dion - Prime Video