廃校の意外な活用例:酒蔵、水族館、ドローン研究……
総務省統計局の発表によると、2023年4月1日時点での日本の子供の数(15歳未満人口)は前年比30万人減の1,435万人で、42年連続での減少となった。
このような少子化の影響が顕著に表れているのが学校教育の現場だ。全国の小中高ほか各種学校を対象とした文部科学省の調査によると、平成14年度から令和2年度までに延べ8,580校が廃校となっているのだ。そのうち999校は平成30年度以降のもので、いまもなお多くの学校が廃校となる状況は変わっていない。
だが、そうやって日々発生する廃校はただ放置されているわけではない。文科省の同じ資料によると、施設が現存する7,398校のうち74.1%にあたる5,481校が何らかの形で活用されているのだという。主な用途は別の学校への転用や体育施設だが、なかには意外な活用法もある。バラエティ豊かな廃校活用事例の中から印象的な例を紹介しよう。
(表記のない限り写真はイメージです)
熊本県菊池市の旧水源小学校は渓谷に近く、その名の通り酒造に適した水が利用可能だった。そんな立地を活かして酒造会社を誘致、給食室などを酒造ラインに改造して日本酒造りに活用されている。
滋賀県の旧今津西小学校は菌床キノコ生産工場として蘇った。教室内をビニールで覆うことで温湿度を管理し、学校をきくらげを中心としたキノコの栽培に活用している。
写真:Lukas from London, England, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons
食品関連でもひときわ意外なのが旧大鰐第三小学校の事例で、なんと生ハム工房として生まれ変わっている。1962年造の木造建築という点が通気性の良さとして利点となり、地元産豚肉を使って生ハムを生産している。意外性からメディアにも多く紹介されたほか、生ハム生産体験も好評だ。
神奈川相模原市の旧荒磯高等学校はさがみロボット産業特区区域内に位置する。そんな立地を背景に、グラウンドや体育館、プールなどの広い敷地をロボット研究用の実証フィールドとして活用している。実際の使用環境に近い状況で実証実験ができるところもポイントだ。
写真:旧荒磯高等学校, IZUMI SAKAI, Copyrighted free use, via Wikimedia Commons
山梨県の旧中富中学校は住宅地から距離があるが、そのおかげで騒音問題や事故のリスクが低いことを活かしてドローン研究・開発施設として活用されている。利用中のドローン開発会社社長の母校だったという縁もあっての活用事例だ。
かつては石炭産業で栄えた福岡県宮若市。産業構造の変化に対応するのが自治体の課題だった。旧吉川小学校の廃校が決まったとき、市内に研修施設を保有していた企業から提案を受け、ミーティングルームやコワーキングスペース、シェアオフィスを設置して新時代の産業拠点として活用されている。また、芸術の場としても活用されており、宮若国際芸術トリエンナーレ「TRAiART」が開催された。
写真:旧吉川小学校, Inglid, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
少子化は社会の高齢化と表裏一体だ。そんな人口構造の変化を象徴するのが、廃校の介護施設としての活用だろう。旧越中畑小学校も高齢化の進む地域に存在し、閉校後は介護施設として活用されている。この事例の特徴は運営主体のNPO法人が地域住民の代表らによって設立されている点で、当初介護事業立ち上げの経験者はいなかったにもかかわらず、いまでは黒字経営に成功している。
2009年に閉校した旧時沢小学校だが、姿は変われどいまでも学びの場として機能している。名前を「高幡熱中小学校」と変え、大人たちにこどもの視点からもう一度学びを提供、地域の課題や最新技術について考える機会を提供している。
意外と盲点だったかもしれないのが、埼玉県小鹿野町の旧三田川中学校の活用例だ。ここでは廃校となった中学校の校舎を映画やテレビ、CMなどの撮影用のロケ地として貸し出している。当初は活用法が決まるまでの臨時的な措置だったが、都心から近いこと、近隣に目立つ建物がないことなどが好評を博し継続的に活用されることとなった。撮影に際しては多くのスタッフが訪問するため、間接的な経済効果も見込めるところもポイントだ。
数ある事例の中でも一際意外性が強いのが旧椎名小学校の水族館としての活用だろう。廃校となった小学校の校舎内に水槽を設置しプールも活用、その名も「むろと廃校水族館」として生まれ変わった。さまざまな学校設備を活かした独特な展示方法も話題を呼び、多くの観光客の誘致に成功した。
写真:むろと廃校水族館, Totti, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
北海道新冠町にある「太陽の森 ディマシオ美術館」は廃校になった小学校を利用してできたものだ。幻想的な作風の画家ディマシオ、その作品を収集していた日本人コレクターがコレクションの展示場所を探していたが、9×27mという巨大な作品もあり難航していた。そんな時に旧太陽小学校の廃校を知り、建物を活用して美術館を設立。巨大な作品も体育館にぴったり収まったという。
写真:自作の横に立つディマシオ
和紙の名産地として知られる岐阜県美濃市では、廃校となった旧片知小学校を地元の歴史や文化を伝えるミュージアムに転用している。広い空間が使える学校という環境を活用し、和紙そのものだけでなくその製造に使われるさまざまな用具を展示している。
写真:美濃和紙用具ミュージアムふくべ, Opqr, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
グランピングとはグラマラス(豪華)なキャンピングのことで、テント設営や道具の準備などのわずらわしさを減らした手軽かつリッチなキャンプを指す。静岡県島田市の旧湯日小学校は空港や高速道路からアクセスしやすい立地を活かし、このグランピングが楽しめる総合施設として生まれ変わった。プールや体育館といった学校特有の施設もアクティビティ施設として有効活用されている。
さまざまなアイディアが実行されている廃校活用。文部科学省は「みんなの廃校プロジェクト」を通じて活用法を探る自治体と事業者のマッチングサービスを展開している。少子高齢化問題は一朝一夕に解決するものではないが、こうした事業を通じて新たな社会構造に対応していくことでその変化をより望ましいものにしていけるかもしれない。