米国の水資源を吸い上げていたサウジアラビア、利用権を取り消される
米国におけるサウジアラビア企業による野放図な水資源の利用が問題となっていたが、アリゾナ州では2023年10月に土地の利用権が停止された模様だ。
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そもそも、サウジアラビアでは水を大量に消費する発芽野菜アルファルファの栽培が禁止されているため、米国の水資源に目をつけたというわけだ。しかし、米国も歴史的な干ばつに悩まされている地域の1つだ。
サウジアラビアの大手乳製品会社が所有する子会社「フォンドモンテ・ファームズ」は、アリゾナ州が干ばつに悩まされる中、水を大量に必要とするアルファルファの栽培を行っているのだ。
『ガーディアン』紙によれば、大量の水を消費するアルファルファの栽培は、ほぼ全土が砂漠からなるサウジアラビアでは2016年に禁止されたという。
しかし、このアルファルファは人間が消費する目的で生産されているわけではない。フォンドモンテ・ファームズの親会社、アルマライが飼育する牛の飼料として利用されているのだ。
写真:Twitter @almarai
アリゾナ州では、深刻化する干ばつで地元の農場が限界を迎えており、州当局も外国籍企業が所有する農場の運営禁止を検討せざるを得ない事態となっている
アリゾナ州のクリス・メイズ司法長官は、「ポンプが汲み上げている水はアリゾナ州の財産であり、実質的にサウジアラビアに輸出されているようなものです」とコメント。
写真:Twitter @AZAGMayes
メイズ司法長官はこの事態について、CBSニュースのベン・トレイシー記者に対し「相手がサウジアラビアであろうとなかろうと、アリゾナ州には水を無料で提供する余裕はありません」と説明した。
フォンドモンテ・ファームズは親会社のアルマライが切実に必要とする水資源を確保するため、広大な土地を購入して地域一帯の水利権を獲得してきた歴史があるのだ。
『ガーディアン』紙のローレン・マーカム記者によれば、フォンドモンテ・ファームズは2012年にアルゼンチンでおよそ1万2,000ヘクタールの土地を購入。2年後には、アリゾナ州でも土地の購入を開始した。
2015年に、同社はアリゾナ州にほど近いカリフォルニア州のブライスで、およそ600ヘクタールの土地を取得。そして、2019年を迎えるころには、一帯の土地6,000ヘクタールが同社のものとなっていた。前出のマーカム記者によれば、これはコロラド川によって潤される渓谷全体のおよそ16%に相当するという。
米国西部でフォンドモンテ・ファームズにどの程度、水の汲み上げが許可されているのかは、あまり公になっていない。しかし、CBSニュースが入手した2014年の書類によれば、同社はアリゾナ州の土地2,400ヘクタールおよびその水資源を保有することが記されていた。
これについて前出のメイズ司法長官は、「アリゾナ州がこんなことを許したのはスキャンダルだ。水不足で危機的な状況に陥るおそれがあるというのに」と怒りをあらわにしている。
アリゾナ州では水資源をめぐる状況が悪化の一途を辿っており、民主党・共和党双方の議員たちが外国企業による水資源の利用を禁止する法案の成立を目指している。
共和党のレオ・ビアジウッチ下院議員によれば、新しい法案は米国の水資源と州の利益を保護するという「非常にシンプル」なものだ。
米国の非営利団体ピュー慈善信託の発表によれば、ビアジウッチ議員は「州の人々に利益をもたらさないような水の汲み上げを阻止したい」と述べているという。
ビアジウッチ議員は、「外国企業による土地の取得を阻止すれば、水の汲み上げもできなくなります。それが目標です」と付け加えている。
民主党のマリアナ・サンドバル議員もビアジウッチ議員と概ね同意見だが、「アリゾナ州外の事業体」はたとえ米国籍であっても同州の地下水を汲み上げるべきではないとクギを刺した。
CNN放送のエラ・ニルセン記者が2022年11月に公開した記事によれば、州の水そのものを輸出することはアリゾナ州の法律で禁止されているという。しかし、アリゾナ州の地水学者マーヴィン・グロットフェルティ氏いわく、水資源を利用して生産されるアルファルファや綿花といった農産物の輸出は許可されているのだ。
ピュー慈善信託によれば、米国西部で外国企業による水資源の利用を禁じたのはアリゾナ州だけではないという。
ピュー慈善信託は、「アリゾナ州、カリフォルニア州、テキサス州、ユタ州、ワシントン州では共和党および民主党の議員たちが、州の水資源保護を目的として外国企業による土地所有やリースを禁止する法律の導入を検討している」とした。
NPR放送のアレックス・ヘガー記者によれば、米国西部は2022年に専門家が「メガ干ばつ」と呼ぶ、著しい水不足に悩まされていた。
2023年10月3日、アリゾナ州のケイティ・ホッブス州知事は調査の結果、フォンドモンテ・ファームズが契約上の条件に違反していることが判明したとして、土地の利用権を取り消すと発表。
写真:Wiki Commons By Gage Skidmore from Surprise, AZ, United States of America - Katie Hobbs, CC BY-SA 2.0
CBS放送が2023年10月に報じたところによれば、ホッブス知事は「(フォンドモンテ・ファームズ社が)取水量をチェックせずに我が州の地下水を汲み上げ続けたことは、明確な契約不履行です」と説明したという。
写真:Wiki Commons By Jeff Vanuga / Photo courtesy of USDA Natural Resources Conservation Service
州政府による調査では地下水の野放図な利用に加え、危険物の不適切な貯蔵など、複数の問題が発覚したようだ。
写真:Wiki Commons By Gage Skidmore / Flickr / CC BY 2.0
フォンドモンテ・ファームズがバトラー渓谷で取得した640エーカー(およそ260ヘクタール)の土地については、すでに利用権が停止されたとのこと。さらに、アリゾナ州の用地課は同社が「対価を支払わずに地下水を過剰に汲み上げている」として、同渓谷にあるその他の3ヵ所についても契約更新しない方針だ。
写真:Wiki Commons By Jeff Vanuga / Photo courtesy of USDA Natural Resources Conservation Service