犬たちに空の旅を提供する「バーク・エア」が運航開始!
ニューヨークとロサンゼルス、ニューヨークとロンドンをつなぐ新たなエアライン、「バーク・エア」の運航が始まっている。「バーク(bark)」とは犬の吠え声のことであり、このエアラインが約束するのは、犬にとって最上質の旅である。
バーク・エアの担当者がNPR(米国公共ラジオ放送)に語ったところによれば、その記念すべき初フライトは2024年5月、さしたる混乱もなく無事に終わったという。
この新しいエアラインは、あくまで犬ファーストの空の旅としてサービスが組み立てられている。彼らは薄暗い貨物室に押し込まれるようなことはなく、れっきとした客室に通され、ファーストクラス並みの対応を受ける。
『ワシントン・ポスト』紙によると、犬を輸送する上でもっとも厄介なのはトイレ問題であるという。バーク・エアでは基本的に犬が客室を自由に歩き回ることができるので、どこであれ犬が用を足すと、乗務員がすぐさま掃除することになっている。
では、食事はどうなっているのだろう? NPRによると、バーク・エアでは軽食と飲料をそれぞれボウルに入れて提供する方法をとっており、さらにチキン風味の「パプチーノ」(スターバックスが販売している犬用カプチーノ)も給餌されるという。
まさに至れり尽くせりのサービスなので、そのぶん料金も高くなっている。具体的には、ニューヨーク発ロサンゼルス行きの運賃が、犬一匹とその同伴者一名で片道6,000ドル(約100万円)から。ニューヨーク発ロンドン行きは8,000ドル(約130万円)から。
この旅行サービスを立ち上げたのは、犬用品ブランド「バーク」である。このブランドは、ドッグフードやドッグウェア、犬用アクセサリーや犬用玩具を作っている。
だが、どういったきっかけでバーク・エアのようなサービスが始まったのだろう。まず、2020年12月に米運輸局が出した声明により、介助犬以外の動物を飛行機に同乗させることが現実的に難しくなったことがある。運輸局の声明により、航空会社はそうした動物の機内への同乗を拒否できるようになったのだ。
『ワシントン・ポスト』紙によれば、運輸局は次のような発表をした。「米国の航空会社は今後、エモーショナル・サポート・アニマルを輸送することを求められはしない」。エモーショナル・サポート・アニマルとは簡単にいえば、飼い主の心を支える重要な存在として制度的に認められているペットのことである。精神科医にかかってカウンセリングを受け、必要な証明書を得ることにより、自分の愛猫や愛犬をエモーショナル・サポート・アニマルにすることができるのだ。
ペットとしてはやや特殊、といえそうな動物が「エモーショナル・サポート・アニマル」になっている場合もある。たとえば、ミニチュアホースやクジャクなど。そういった動物と飛行機の中でも離れまいと固く心を決めている飼い主が少なからずいて、空港でトラブルが頻発する事態となっていた。運輸局としては航空会社のしかるべき対応について明確な基準を示す必要にせまられ、前出の声明に至ったのだ。
それでもペット大国アメリカにおいては、ペット関連ビジネスがここ数年で成長の一途をたどっており、社会はどんどんペット・フレンドリーな方向へと向かっている。とりわけ子供を持たない若い世代の間でペットを飼うケースが多くなっている。
ウェブメディア『The Conversation』によると、米国で小型犬を飼っている人は2008年には3,410万人だったのが、2012年には4,080万人に増えたという。
ペットを飼う人が増えたことで、ペット関連のビジネスは一気に加速することになった。犬のデイケアサービスや散歩代行業といった昔からあるようなサービスに加え、現在ではますます多様なサービスが提供されるようになっている。
犬や猫を飼う人が増えたことで、そのような人々を雇用している企業の側でも新しい動きが誘発されている。『フォーブス』誌によると、オフィスへのペット同伴を認める企業が増えているという。新型コロナのパンデミックでリモートワークが一気に拡大したわけだが、その後さまざまな事情から従業員のオフィス復帰率を高めたいと考える企業も多く出てきて、ペット同伴化はその解決策のひとつとして進められているようだ。
しかし、そのようなオフィス改革は企業にとって諸刃の剣になりはしまいかと『The Conversation』は警告している。ペット・フレンドリーな職場は犬や猫が好きな人にとっては天国かもしれないが、犬や猫が嫌いな人にとってみれば地獄にほかならず、一部の被雇用者の労働生産性が落ちることは容易に想像がつくからだ。
写真:Andy Orin / Unsplash
しかし大方の趨勢として、犬や猫を飼っている人は、米国社会においてこれからさらに多くのスペースを占めていくだろう。『フォーブス』誌も『The Conversation』もその点では一致している。ミレニアム世代が子供をもつことに消極的であるかぎり、ペットの存在感はいよいよ高まっていくだろう。