男性用下着の売上が経済状況を示す?
「最後に下着を買い替えたのはいつ?」などというのは個人的で、たいした意味のない質問に思えるかもしれない。だが、じつはこんな質問が、経済全体の様子を測る指標となり得るとして経済学者の注目を浴びているのだ。
この情報はその名も「男性用下着指標」として知られ、男性用下着の売り上げと経済全体のあいだになんらかの相関があることを示している。
この「男性用下着指標」が広く知られるようになったのはアメリカの中央銀行に当たる政府機関である連邦準備制度理事会の元議長アラン・グリーンスパンによる。グリーンスパンは男性用下着の売上の変化は消費者のマインドや消費行動の変化を示すと指摘したのだ。
アメリカの放送局NPRの記者ロバート・クルルウィッチはこう語っている:「むかしグリーンスパンがこう言っていました。家にある服について考えてみると、男性用下着こそがもっともプライベートなものだ。男性更衣室くらいでしか他人の目に触れず、そこにいる人は他人の下着などどうでもいいと思っているのだから、と」
この分析の背後にある考え方をまとめると、こういうことになる:不景気になると、より基本的な生活必需品への消費の方が優先される。
これはつまり、たとえ使えるお金が減っても、食品や家賃、基本的な服などにかけるお金は削りづらいということだ。
経済が堅調な場合、男性用下着の売り上げは比較的安定している。だが、ひとたび不景気になると、消費者は買い替えを渋るようになってしまう。
Image: Cristi Ursea / Unsplash
対照的に、好景気となった場合、ふだんより高級なブランドの下着を買うことも増える。そのため、高価なブランド下着の売り上げが増えることになる。
実際の数字を見てみると、2008年のリーマンショックの時には、男性用下着の売上は顕著に落ちていたという。CNNが報じている。
そして、経済が復調してきた2010年には男性用下着の売上も回復したのだという。
たしかに「男性用下着指標」は正式な経済学的指標とは言いづらく、そこから言えることには限界もあるが、消費者の行動について示唆的な面があることも事実だ。
似たような指標は他にもあり、化粧品ビジネスで財を成したアメリカの事業家レナード・ローダーは2000年代初頭に「口紅指標」を提唱している。
ローダーによると、化粧品の売れ行きはその国の経済の健全性と逆向きに相関しているのだという。
2020年のコロナ禍において、CNNが似たような指標を提唱している。これは「マスカラ指標」と呼ばれたが、マスクが義務化されたことでマスカラの売り上げが増したことが原因だった。
これらはすべて擬似相関の好例というべきものだ。一見無関係の事象に関連があると見えるものだが、最初は見逃されていた第三のファクターによって関連が説明されることが多い。
実際の意義はともかく、「男性用下着指標」は、消費者行動と経済の関係を考えるきっかけとなる面白い考え方だとは言えるだろう。
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