真空世界を漂うジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡:レンズが捉えためくるめく宇宙
2022年に稼働を始めたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡。以来、宇宙の果ての知られざる風景を人類に伝え、研究者のみならず天文ファンをも驚かせている。たとえば、この画像は星間分子雲を捉えたものだ。同望遠鏡を運用する国際研究チームによれば、生命の素となる様々な分子が検出されたという。
写真:NASA
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が捉えた「NGC 3132(南のリング星雲)」。右側の画像には、星雲の中心に位置する明るい恒星がはっきりと写っている。
写真:NASA
専門家たちの間では人気の撮影対象、わし星雲の「創造の柱」。この暗黒星雲の姿を捉えたのはジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡がはじめてではないが、ここまで解像度の高い画像はかつてなかった。
写真:NASA
豆のような形で見えているのは融合しつつある2つの銀河。下側の銀河は通常の渦巻銀河だが、上側の銀河はわずかに歪んでいる。
写真:NASA
一方、この画像からは恒星誕生のプロセスが読み取れる。NASAの専門家たちによるInstagramアカウント上の解説によれば、この星は「恒星の前段階」にあり、中心部の圧縮によって温度が上昇している最中だという。そして、ひとたび核分裂が始まれば、新たな恒星の誕生ということになる。
写真:NASA
この示唆に富んだショットには、様々な形や大きさをした無数の銀河が捉えられている。白く囲まれた部分の中央には、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡によって発見されるまで知られていなかった赤い銀河が写っている。@nasawebbによれば、ビッグバンから3億5,000万年後に形成されたと見られているようだ。
ウェッブ望遠鏡の高感度近赤外線カメラがとらえたWLM銀河がこちら。ハッブル宇宙望遠鏡やスピッツァー宇宙望遠鏡と比べて格段に高い解像度だ。
写真:NASA
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が再びわし星雲の「創造の柱」の全容を捉えた。今度はさらに高解像度で、細部まではっきりと見て取ることができる。
写真:NASA
合体プロセスを終えつつある2つの銀河「IC 1623」も、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のおかげでカラフルな姿を見せてくれる。
こちらはステファンの五つ子銀河。5つの銀河のうち4つは重力を通して相互作用しあうコンパクト銀河系だ。
写真:NASA
カリーナ星雲の色鮮やかな風景がこちら。崖のように見えているのは塵とガスで、背後には誕生したばかりの星が無数に輝いている。
写真:NASA
2022年7月11日、ジョー・バイデン米大統領がジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の捉えた画像第一号を公開。この望遠鏡の今後の活躍次第では、天文学の歴史が書き換えられることになるだろう。
バイデン大統領は、自身のツイッター・アカウント@POTUS上で「ウェッブ宇宙望遠鏡が捉えた最初の画像は、科学技術における歴史的瞬間を示すものだ。天文学と宇宙探索の未来は明るい」とコメントした。
写真:Twitter @POTUS
欧州宇宙機関(ESA)のヨーゼフ・アシュバッハー長官いわく:「チームワークと熱意、そして限界に挑み続ける人々の強い意思のおかげで、私たちは原始宇宙の最深部を写真に捉えるという、歴史的瞬間に立ち会うことができたのです」(スペイン紙『El Mundo』に掲載された声明より)
写真:NASA
また、欧州宇宙機関(ESA)の公式Instagramアカウントは、この歴史的な画像から何を読み取ることができるのかを説明:「この画像には銀河団SMACS 0723が細部まで鮮明に映っています。無数の銀河を細部まで観察することはこれまで不可能でしたが、ウエッブ宇宙望遠鏡のレンズを通してはじめて捉えることができるようになったのです」
写真:NASA
これらの画像はたった1日で撮影されたものだが、これまで30年にわたって宇宙の謎を解明してきたハッブル宇宙望遠鏡で同様の撮影を行おうとすると、数週間はかかるはずだという。ウェッブ宇宙望遠鏡がいかに高性能であるかおわかりいただけるだろう。
写真:NASA
一方NASAもInstagramアカウント@nasawebb上で歴史的画像について説明を行っている:「真っ黒な背景に無数の銀河が写っています。色や形は様々で、オレンジ色がかったものや白いものがあります。ほとんどの星は青く、そばに映っているはるか遠方の銀河と同じくらいの大きさに見えています」
写真:Instagram @nasawebb
しかし、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の捉えた画像が科学の世界でそれほど重要な意味をもっているのはなぜだろうか?
写真:NASA
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が打ち上げられたのは2021年12月25日、日本時間午後9時20分。発射基地となったのは仏領ギアナにあるギアナ宇宙センターだ。
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡はNASA、欧州宇宙機関(ESA)およびカナダ宇宙庁の連携によって誕生した、世界一高性能な望遠鏡だ。
写真:NASA
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の任務は宇宙の謎を解明し、生命はどこからやって来たのか、地球外生命体は存在するのか、といった長年の疑問に答えを出すことだ。
写真:NASA
とりわけ期待されているのは、地球から遠く離れた銀河を調査することで、ビッグバン直後の宇宙の姿がわかるのではないかということだ。
写真:NASA
宇宙望遠鏡を利用して初期に誕生した銀河を観察するのは、過去にタイムスリップするようなものだ。『ガーディアン』紙によれば、プロジェクトを担当する研究者たちはこれについて、宇宙が「初めてスイッチを入れるところ」を眺めるようなものだと述べている。さらに「何十億光年も離れた銀河を観察することで、ウェッブ宇宙望遠鏡はビッグバン直後まで時間を遡ることができるのです」としている。
ウェッブ宇宙望遠鏡が打ち上げられたのは2021年だが、計画がスタートしたのは1990年代だ。何度も不測の事態に見舞われたため、開発が数十年遅れてしまったのだ。
写真:NASA
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡の主な違いは観測に用いられる光の波長だ。ウェッブ宇宙望遠鏡はほとんどの場合、赤外線領域で観測を行うため、より遠方の宇宙を捉えることができるのだ。
画像:2003年に打ち上げられたスピッツァー宇宙望遠鏡とウェッブ宇宙望遠鏡の光学的な違い(Instagram @nasawebb)。
しかも、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は直径6メートルを超える巨大な鏡を複数備えており、非常に小さい観測対象を捉えることもできるのだ。
写真:NASA
ハッブル宇宙望遠鏡とのもう1つの違いは、地球からの遠隔操作に関するものだ。ハッブル宇宙望遠鏡が地球から570キロメートル地点を周回しているのに対し、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は約150万キロメートルの地点にあるのだ。
写真:NASA
深宇宙を観測するということは大昔に放たれた光を捉え、およそ130億年前に誕生したとされる宇宙の初期の姿を再現することに他ならない。
写真:NASA
そこで、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡に課された最初の任務の1つは地球から7,600光年の距離にあるカリーナ星雲を観察することだ。この星雲では太陽よりも遥かに巨大な星が無数に誕生している。
写真:NASA
無論、これほど高性能な望遠鏡は非常に高価だ。実際、このプロジェクトにかかった総費用は約110億ドルで、大部分はNASAが出資した。
写真:NASA
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、欧州原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)と並んで、人類が取り組んでいる最も挑戦的なプロジェクトの1つだ。
写真:NASA
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のもう1つの任務は、地球外生命体やその痕跡を探索することだ。
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ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡がどのような発見をするにせよ、人類の歴史に新たなページが刻まれるのは間違いないだろう。
写真:NASA