第2次トランプ政権の発足でウクライナ情勢はどうなる?
第2次トランプ政権の発足は吉と出るか凶と出るか、ウクライナは慎重に見極めようとしているに違いない。実際、米国にこのまま見放されてしまうのか、それとも、経済面・軍事面でさらなる支援を受けることができるのかはトランプ氏の決断次第なのだ。
トランプ次期大統領は就任後24時間以内にウクライナ侵攻を終結させる、と事あるごとに豪語してきた。しかし、トランプ氏がどうやってこの公約を実現するつもりなのかは依然として不透明だ。とはいえ、トランプ氏就任後のウクライナ情勢の行方については、さまざまな推測がなされている。
そんな中、ニュースメディア「ビジネスインサイダー」は第2次トランプ政権発足後のウクライナ情勢について、4つのシナリオを提示した。しかし、苦境に立たされるウクライナにとって、すべてのケースで事態が好転するというわけではない。
まず考えられるのは、トランプ氏が現状のまま戦争を凍結させるという可能性だ。つまり、2025年初旬時点の前線を停戦ラインとして和平合意を成立させるということだ。ただし、これにはいくつかの課題がある。
ウクライナのゼレンスキー大統領は以前から、西側諸国による安全保障(ウクライナのNATO加盟を含む)がなされない限り、ロシアとの停戦協議には応じない姿勢を見せてきた。これは停戦後にロシアが再び侵攻してくるのを防ぐ狙いがあるものと考えられる。
同大統領は2024年11月にスカイニュース放送が行ったインタビューの中で、「激戦を終わらせるには、ウクライナ領の中でもわが国の支配下にある地域はNATOの傘のもとに置かれなくてはなりません」とコメント。
一方、ウクライナがNATOに加盟したり、NATOと防衛協定を結んだりすることをロシア側が容認するとは考え難い。実際、プーチン大統領は2024年6月に、停戦条件について次のように語っている。
『ル・モンド』紙いわく、プーチン大統領は2024年6月に行われたTVインタビューの中で、「ウクライナ軍はドネツク人民共和国、ルハンシク人民共和国、ヘルソン州およびザポリージャ州から完全に撤退しなければならない」と主張。
さらに、「ウクライナ政府がこの条件を受け入れた上で、軍を撤退させはじめ、NATO加盟計画を正式に放棄すれば、わが国はまさにその瞬間から停戦交渉を開始するだろう」とした。
ロンドンに拠点を置くシンクタンク、王立国際問題研究所のアソシエイトフェローであるジョン・ラフ氏によれば、たとえウクライナとロシアがNATO加盟をめぐる不一致を克服したとしても、現時点で停戦や和平交渉がなされる可能性は低いという。
ラフ氏いわく:「現段階で和平はあまりにも高望みです」また、戦略国際問題研究所(CSIS)のシニアアドバイザーを務めるマーク・カンシアン氏も、現時点で和平合意を結んでも「数年後にまた戦争が起きることは容易に想像できます」とコメントしている。
第2のシナリオはウクライナ侵攻のさらなる長期化だ。ただし、このシナリオが現実のものとなるのはロシアが戦闘継続を選択し、西側諸国とくに米国がウクライナ支援を継続するという決断を下した場合のみだ。
「ビジネスインサイダー」によれば、トランプ氏および次期副大統領のJ・D・ヴァンス氏はウクライナ支援の継続に否定的だとされる。また、戦争が長期化すれば、ウクライナはヒト・モノ・カネの面で、さらなる負担を強いられることになるだろう。
長期化シナリオが現実のものとなれば、ロシア経済も同様に打撃を受けるはずだ。しかし、英王立国際問題研究所のロシア・ユーラシアプログラムを率いるジェームズ・ニクシー氏は2024年2月に、長期戦争はウクライナにとって「まさに悲惨な結果」になるだろうと予想した。
ニクシー氏はさらに、「ウクライナはロシアほどたくさん国民を徴兵することができません。また、同国はロシアより人命を重視しているため、消耗戦が長引けば、苦境に立たされることになるでしょう」と続けている。
トランプ政権のもとで、もっとも懸念されるのはロシアの勝利だろう。つまり、西側諸国による支援が滞り、リソース不足に陥ったウクライナが防衛線を支えきれなくなる可能性だ。マーク・カンシアン氏によれば、このシナリオが現実のものとなれば、ウクライナは領土をさらに失うことになるという。
トランプ氏は以前から、ウクライナ支援をこれ以上、続けるつもりはないと述べてきたが、同氏がこの発言通りの政策をとった場合には、ロシアが戦場でウクライナを破る可能性が出てくる。
一方、ロシアが和平交渉に応じないことにしびれを切らしたトランプ氏が、ウクライナ支援を強化した場合には、ウクライナ側の勝利で終戦を迎える可能性もある。ただし、「ビジネスインサイダー」は第2次トランプ政権下でウクライナが勝利する可能性は低いと指摘している。
同メディアいわく:「トランプ氏が掲げる戦闘の早期終結という目標やウクライナ東部におけるロシア軍の勢力拡大、ウクライナ側のリソースの枯渇と士気の低下を考慮すると、今のところウクライナの勝利はありそうにない」