米国が核兵器のコア製造を再開:背景は中国の台頭と、ロシアが掲げる西側諸国との対決姿勢
ソ連の崩壊によって東西冷戦の時代は終わり、もはや核戦争の危機は去ったという楽観的な見方がなされたこともある。しかし、実際にはいまだに核兵器保有国が複数存在し、リスクが解消されたとは言い難い。
公式に核兵器の保有を公表している国家は8ヵ国あるが、なかでも米国は核兵器の維持に毎年数十億ドルを費やしてきた。
写真:Wiki Commons By US Air Force
米国議会予算局は2021年5月、核兵器の維持および近代化にかかる費用について、10年間で推計6,340億ドルに上ると発表。さらに、30年間では総額2兆ドルに達するものと見られている。
写真:Wiki Commons By National Nuclear Security Administration
また、この報告書では米国が多数の核兵器を必要とする理由について、国家安全保障の要であり国防政策の到達点だと説明されている。
写真:Wiki Commons By U.S. Air Force Staff Sgt. Bennie J. Davis III
しかし、米国議会予算局の報告書に関して注目すべきは、同国が核兵器の維持だけでなく近代化も図っているということだ。というのも、すでに耐用年数が過ぎてしまった核兵器が多数あるためだ。
そこで、米国は新たな兵器を製造するのではなく、既存の兵器の耐用年数を伸ばして核戦力を維持するという、低コストな対策をとっている。
つまり、改修やシステムの更新で対応するというわけだが、なかには再利用や用途変更ができないものも存在する。
写真:Wiki Commons By Jnanna - Own Work, CC BY-SA 3.0
しかし、国際情勢は緊迫の度合いを増しており、米国もついに核兵器ピット(コア)の生産を再スタート。『サイエンティフィック・アメリカン』誌によれば、米国の核兵器はすべて心臓部にプルトニウム製のピットを持っているとのこと。
写真:Wiki Commons By Los Alamos National Laboratory
核兵器のピットは爆薬で包まれており、これが起爆すると中心部のプルトニウムが圧縮され核分裂を開始。大規模な爆発を引き起こす仕組みになっている。
しかし、『ガーディアン』紙によれば、米国ではここ数十年にわたってプルトニウム・ピットの製造が行われていないばかりか、1989年以降は在庫の更新を進める上で必要な数を製造する能力そのものを失ってしまったという。
しかし、米国の国家核安全保障局は核兵器ピットの生産をふたたび本格化させる計画を2018年に策定。2023年までにプルトニウム製ピットの製造ペースを、年間80基に到達させるという目標を掲げた。
2018年に国家核安全保障局が発表した声明によれば、米国は地政学的情勢の変化に対応するため「国防用のプルトニウム製造能力を増強」しなくてはならないとのこと。
『タイム』誌のW・J・ヘニガン記者いわく:「(米国は)ここ30年間、核兵器の製造をストップしていたが、ついにゲームに戻ることとなった」同記者はさらに、プルトニウム製ピットの生産スタートで新たな軍拡競争が始まる可能性に言及した。
写真:Wiki Commons By White House Photographic Office
ヘニガン記者はまた、覇権への野心を見せる中国と東西対立をあおるロシアを非難しつつ、核兵器保有国がこぞって「核戦力の近代化と新造に乗り出した」と懸念を示している。
『サイエンティフィック・アメリカン』誌のサラ・スコールズ記者いわく:「中国が急速に核戦力を増強する一方、ウクライナ侵攻中のロシアは新型ミサイルの実験を行うなど、核戦力の近代化をさかんに宣伝しています。無論、米国も同じことをしているわけです」
同記者はさらに、「世界秩序は脆弱化しています。核戦力がふたたび注目を浴びることで21世紀の軍拡競争が生じ、抑止力を前提とする危うい平和への依存度が増すおそれがありますが、核兵器によってその均衡が維持されるのかどうかは未知数です」とコメント。
米国はロスアラモス国立研究所にある核兵器ピット製造所「PF-4」をはじめ、核開発施設をふたたび稼働させ、プルトニウム製ピットの生産を再開しようとしている。しかし、この計画については、うまく行かない可能性も指摘されている。
前出のヘニガン記者によれば、米国の会計検査院(GAO)は2023年1月の報告書の中で、PF-4に課された製造目標(2026年までに年間30基)が達成されることはないだろうと指摘したという。
写真:Wiki Commons By Department of Energy