米国が2,000両の軍用車両「ハンヴィー」をウクライナに供与:80年代の古式車両が発揮する意外な有効性とは
バイデン政権は2024年10月、ロシアからの全面侵攻を受けるウクライナに対して新たな支援パッケージを発表した。そこには数千台の軽車両が含まれており、ウクライナで有効活用されることが期待されている。
米国防総省は10月16日、総額4億2,500万ドル相当のウクライナ支援パッケージを発表した。それ自体は専門家も予想していたことだったが、そこにおよそ2,000台の高軌道多用途装輪車両(High Mobility Multipurpose Wheeled Vehicles:HMMWV)が含まれていたことは意外性を持って受け止められた。
HMMWVはハンヴィーとも呼ばれ、軽量かつ耐久性に富んだ軍用車両だ。『フォーブス』誌によると、米軍はこの車両を多用してきたが、かなり古い機種でもあるという。
ハンヴィーが米陸軍で制式採用されたのは1980年代のことだ。そのため、なぜいまさらこのような車両をウクライナに送るのか、という疑問も呈されている。
だが、米軍の古い装備はウクライナの戦場で非常に有効であることが実証されている。たとえば、M2ブラッドレー歩兵戦闘車も制式化されたのは1979年末だが、ウクライナで大きな活躍を見せており、『フォーブス』誌のデヴィッド・アックス記者は「今次のウクライナ侵攻において、最も優れた歩兵戦闘車」とまで語っている。
ハンヴィーはM2ブラッドレーとは違い、戦闘力を売りにした車両ではない。それでもこの車両には、ウクライナで活躍するだろうと思わせる、多くの優れた点があるのだ。
まず、ハンヴィーは軽量で機動性に富む。そのため偵察任務には最適だし、積載量が多いため敵装甲車両に機動戦を仕掛けるのにも適している。
軍事サイト「Military.com」によると、ハンヴィーは強力な重機関銃のほかに、BGM-71 TOW対戦車ミサイルも搭載可能だという。そのため、敵の装甲車両や戦車にも対抗することができる。
そのTOW対戦車ミサイルも、10月に発表された支援パッケージに含まれていた。だが、ハンヴィーの真の有効性は、車両が不足しがちなウクライナ軍の、兵力の間隙を埋めるところにあるのだという。
画像:Wiki Commons By Victor J. Ayala, CC BY 2.0
『フォーブス』誌によると、ウクライナは1000kmにも及ぶ戦線を維持するために大量の装備を必要としているという。ハンヴィーは有効かつ即座に運用可能で、素早くその戦線の隙を埋めることができる。
OSINT組織「Oryx」によると、ウクライナは今年に入ってからおよそ2,000両の車両を失っているという。実際の損失はこれ以上の数字となっている可能性もある中、ハンヴィーはその不足分を補うことができる。
『フォーブス』誌いわく、米軍はおよそ5万両のハンヴィーを保有しており、ウクライナでもすでに運用されてきた実績があるという。アメリカ国務省によると、米政府はこれまでに総計5,000両のハンヴィーをウクライナに供与してきたとされている(今回の2,000両を含む)。
同誌のヴィクラム・ミッタル博士はこう語っている:「ウクライナ軍はすでにハンヴィーを3,000両ほど受け取り、使いこなしている。戦場では広く活用されており、兵士からの評判も良い」
供与されるハンヴィーは米軍から払い下げられる。近年まで実践で活用されていた車両が活用される予定となっており、ただちに戦場に送ることができる状態ということになる。
ミッタル博士はこう述べている:「米軍からの払い下げということは、他の先進的なシステムと比べても格段に安価だ。そのためアメリカとしても、予算の枠内でウクライナに大量に送ることが可能になる」
画像:Wiki Commons By U.S. Navy photo by Petty Officer 3rd Class James Ginther, Public Domain
「ウクライナ側も、到着したら即座に軍で運用することができる。操作感も民間車両に近く、長い訓練期間を設ける必要もない」
画像:Wiki Commons By VoidWanderer, Own Work, CC BY-SA 4.0
ウクライナ紙『The New Voice of Ukraine』によると、ハンヴィーは兵員輸送や武器の運搬にも利用できるという。実際、すでにウクライナ軍ではハンヴィーを支援車両に転用した実績があるとのことだ。
ほかにも、対空機銃やドローンシステムを搭載して対空車両として運用した例もある。この万能さも、いまウクライナに大量のハンヴィーを送る理由のひとつだ。