ヒトの精液からも検出:マイクロプラスチックの脅威とは
世界中の研究者たちは、人体のあちこちからマイクロプラスチックが検出されることについて危機感を募らせている。最近になり男性の精液からもマイクロプラスチックが発見されたようだ。
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『WIRED』誌によれば、この研究は中国済南市で行われたものであり、対象者40人の精液に含まれるマイクロプラスチックの量を測定するとともに、不妊をもたらす可能性について分析するというものだった。なお、対象となった男性の中にプラスチック産業の労働者はいなかったという。
学術誌『Science of the Total Environment』に掲載された論文によれば、この研究では顕微ラマン分光法によるマイクロプラスチック粒子の特定や、量の測定が行われたという。同時に、精子の運動性や形態の分析も行い、マイクロプラスチックによる影響を評価したとのこと。
運動性というのは、精子が自律的に移動する能力のことだ。今回の研究では、マイクロプラスチックを含む精子の運動性に異常が見つかっており、この種のプラスチックが不妊の原因となっている可能性もある。
今回の調査では、すべてのサンプルからマイクロプラスチックが検出されたという。ところで、マイクロプラスチックというのは具体的にどのくらいのサイズなのだろう? 一般的に、直径5ミリメートル以下のプラスチック片はすべてマイクロプラスチックと呼ばれるが、今回検出されたものは0.72~7.02マイクロメートルで、肉眼では見えないサイズだったという。
検出されたマイクロプラスチックは8種類あったが、なかでも多かったのはポリスチレン(31%)で、これは包装や容器などに利用される一般的なポリマーとして知られている。次いで多かったのはポリエチレン(14%)とポリ塩化ビニル(14%)だ。
IT関連のニュースサイト「Gizmodo」によれば、マウスを用いた実験によって、ポリマーにさらされたオスの精子数は減少することが判明しているそうだ。また、『WIRED』誌が伝えたところによれば、げっ歯類を用いた別の実験ではマイクロプラスチックによって動物の行動に変化が生じる可能性が指摘されており、汚染が進んだマウスはよりおとなしくなったという。
マイクロプラスチックが人体に与える影響は数十年前から研究されており、血液や尿、胎盤、母乳などからこの種のプラスチックが検出されている。
マイクロプラスチックは粒子のサイズが小さいため、水や大気の循環に乗って容易に運ばれてしまう。また、『WIRED』誌の記事によれば、ハリケーンに乗って拡散されるケースもあり、ときには1平方メートルあたり最大10万個もの粒子が撒き散らされてしまうと判明したそうだ。
このように、マイクロプラスチックはいたるところに存在するため、当然ながら人体にも取り込まれてしまう。オーストラリアのニューカッスル大学で2019年に行われた研究によれば、1人あたり1週間に最大5グラムものプラスチック粒子を吸収してしまっている可能性があり、これはクレジットカード1枚分に相当する量だという。
この研究ではまた、マイクロプラスチックが体内に侵入する経路としてもっとも一般的なのは飲み水であることが判明。さらに、マイクロプラスチックに汚染された魚介類を口にすることで、間接的に取り込んでしまうケースもあるそうだ。
汚染の度合いは地域によって異なるものの、人体は飲み水から1 週間に平均1,769個ものプラスチック粒子を取り込んでしまっているかもしれないのだ。ちなみに、米国では上水道の94%あまりがマイクロプラスチックに汚染されていたという。
マイクロプラスチックが人体にもたらす長期的な影響についてはいまだに研究途上だが、『WIRED』誌によれば、これまでの研究成果によって「消化器系や呼吸器系に炎症や酸化ストレス」を引き起こすおそれがあることが判明しているとのこと。
また、『The New England Journal of Medicine』誌上で公開された別の研究論文では、マイクロプラスチックと心血管疾患との相関関係が指摘されている。頸動脈の手術を受けた患者200人あまりのうち、およそ60%のケースで血管からマイクロプラスチックが検出されたのだ。
一方、マイクロプラスチックが不妊症の一因になるのかどうかについては、今のところ不明だ。しかし、中国における研究では、この種のプラスチックが「男性の不妊症に関する累積的かつ慢性的なリスク」となりうるとされている。一方、胎盤におけるマイクロプラスチックのリスクを調査した研究によれば、胎児の発育に悪影響を与えるとは言い切れないとのこと。
なお、中国の研究チームは「この分野の研究によって、マイクロプラスチックは人々の健康に悪影響をおよぼす要因となりうることが判明しており、人体における汚染の度合いと不妊症の関係を理解する必要があるだろう」と結論づけている。
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