足元からの危険に怯えるプーチン大統領、警護コストを増額
ウラジーミル・プーチン大統領は自らの警護費用を増額している。民間軍事会社ワグネルの反乱が一時はモスクワに迫る勢いを見せるなど、ロシア国内の情勢は一段と緊迫化しており、プーチン大統領が身の危険を感じたとしても不思議ではないのだ。
ロシア外務省発表のデータによると、今年1月から5月にかけて150億ルーブル(およそ250億円)が「露大統領の職務上の経費」として国庫から支出されたという。『ザ・モスクワ・タイムズ』が報じた。
この数字が正しいならば、大統領の職務に充てられた一年分のロシア連邦予算のうち、その限度額の77パーセントまでが半年足らずで使われた計算になると『ザ・モスクワ・タイムズ』は指摘する。
『ザ・モスクワ・タイムズ』はさらに、この項目(露大統領の職務上の経費)の支出が昨年の同時期と比べて15%の上昇を示しているとしている。このように経費が嵩んでいる理由は何だろうか。
その理由は、ウクライナ戦争がのっぴきならない展開を見せ、ウクライナの手がロシア国境内部にまで伸びているということにある。ロシア政府要人のさらに手厚い保護が必要とされており、安全対策への支出が増大しているのだ。
最近ロシア国内では暗殺事件が相次いで発生し、親政権派のプロパガンダ発信者であるウラドレン・タタルスキー(カフェの爆発で死亡)、人気作家で新露派分離主義勢力の元軍人という経歴を持つザハル・プリレーピン(車の爆発で負傷)が狙われた。この件についてウクライナ国防省情報総局のトップは具体的な事件への関与は明言しないものの、ウクライナ情報部がロシア国内で特定の人物を標的にしていることを認めている。
ウクライナ国防省情報総局トップであるキリーロ・ブダノフ少将は5月、ウクライナのYouTube チャンネル「Rizni Lyudi」のインタビューで次のように語っている。「我々は既にかなりの数のターゲットに首尾よく照準を合わせています。事件の幾つかはさかんに報道され、衆人の知るところとなっています」
英『タイムズ』の記事によると、キリーロ・ブダノフ少将はウクライナ情報部にとってプーチン大統領が真の標的であることを認めつつも、ウクライナがプーチン大統領の暗殺を企てたことはこれまで一切ないと述べているという。
しかしプーチン大統領の側近はそのような幸運にあずかることはできないかもしれない。ブダノフ少将いわく、ロシア国内にはウクライナの諜報員が潜入しており、戦争犯罪人を独自にマークしているからだ。「そのようなケースは実際に起きていますし、今後も起こり続けるでしょう」とブダノフ局長は所見を述べた。
「そういった人々は罪に見合うだけの処罰を受けるべきであり、適切な処罰はどうしても殺害になります。私はためらわず実行に移します」とブダノフ局長は続けた。
『ニューズウィーク』もまた、クレムリンを狙った5月3日のドローン攻撃の後、プーチン大統領身辺の警備コストが増加していると報じている。
『ニューズウィーク』によると、5月30日にはドローン8機がモスクワの高級住宅街を狙って攻撃を仕掛けたという。だがウクライナ当局はいずれのドローン攻撃についても関与を否定している。
ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官は、クレムリンやプーチン大統領のセキュリティに関して「全面的に強化することになるし、すでに十分な強化が施された」と述べた。『ザ・モスクワ・タイムズ』が報じた。
ロシアの独立系メディア『Verstka』によると、今年3月に国際刑事裁判所から逮捕状を出されて以来、プーチン大統領は身柄を拘束される可能性を案じているという。その証拠として『Verstka』は、令状が出されてからプーチン大統領はロシア国外に出ていないことを挙げている。
逮捕状の一件がプーチン大統領と側近のセキュリティコストにどう絡んでくるのか明確には見定めがたいが、彼らがロシア国外で外交特権を享受できないとすると、逮捕を阻むための何らかの別の措置がすでに取られており、そのための追加支出があるはずだという見方も成り立つ。
『ザ・モスクワ・タイムズ』はロシア政府のむこう三年間の予算に目を通し、プーチン大統領の「職務上の経費」として合わせて597 億ルーブル(およそ1012億円)が計上されていると指摘している。