戦線から脱走するロシア兵たちの数が増大:戦場で騙され、上司から見捨てられ......
ロシアによるウクライナ侵攻は泥沼化の一途を辿っている。当初はわずかな期間で家に帰れると言われていたロシア兵士たちも、一向に終結の気配の見えない侵攻に嫌気がさしたのか、戦線を抜け出す人員数も増える一方だ。
ロシアの独立系メディア「Mediazone」によると、2023年の前半6ヶ月間で、軍からの脱走の罪で立件されたケースが2076にものぼるのだという。
ラジオ局「ラジオ・フリー・ヨーロッパ」によると2023年の脱走兵の数は2022年の2倍であり、ウクライナ侵攻以前の2021年と比較すると3倍にも及ぶのだという。
だが、持ち場を離れる兵士が増えているのはただ戦争に疲れたからというだけではないらしい。自らが参加している戦闘行為の正当性に疑問を抱いて離れる者もいれば、ただ死地に送られていると悟って逃げ出した者もいる。
しかも、多くの専門家も指摘するように、プーチン大統領はロシア軍が現在直面している状況について秘密主義的な態度をとっているため、この数字も過小に報告されていると考えるべきだ。
ロシア兵が軍から脱走することを決意し実行に移した場合、実際にはどのようなことになるのだろうか。祖国に背を向けるのは決して簡単な決断ではないし、非常に深刻な結果を招くこともある。ウクライナに銃を向けることを拒否したロシア兵が何を考えていたのか、その現実を追った。
侵攻開始以来、いくつかのメディアが戦闘を拒否したロシア兵に取材を行っている。例えば、ロイター通信の取材に匿名で応えたあるロシア兵は「これは我々の戦争ではない」と語っている。
その兵士は、ロシア軍が兵士たちに対する約束を守っていないことも問題だと指摘している。
その兵士はロイター通信にこう語っている:「(ロシアにいた時)我々兵隊は列に並ばされて、毎日俸給がもらえ、戦闘回数や勲功に応じて増額されると聞かされました」だがその兵士によると、約束された昇給は得られなかったという。「それでみんなで辞めることにしました。全部で14人でした」
どこに送られるのかも知らされなかった、と証言している兵士も多数存在する。侵攻初期、ウクライナは捕虜にしたロシア兵に母親と電話させ、民間人を撃っていると認める様子を収めた動画を公開していた。ちなみに、こういった動画の公開はジュネーブ条約に違反していることは指摘しておこう。たとえプロパガンダ目的であっても、捕虜はいかなる形でも見せ物にしたり利用したりしてはならないとされている。
ウクライナは他にも戦場を離れたロシア兵の動画を公開しており、そこでは兵士らが戦争ではなく演習に参加すると聞かされており、政府に「騙された」と感じているということが語られていた。
2022年初頭にはCNNがある匿名将校の証言を公開。そこでは、クリミアに送られて、その気はなかったのに気づいたらウクライナの領土に侵入していたと語られていた。その将校と部下たちは意に反して開戦に加担させられたのだ。
その将校によると、そもそもウクライナの「脱ナチ化」を目的とした作戦だということすら教えられていなかったという。
作戦の目的については具体的なことはほとんど伝えられていなかったとされる。その将校はCNNにこう語っている:「『ウクライナのナチ政権』的なレトリックのことは聞いていませんでした。何のための作戦なのか、そこで何をするのかすらわかっていませんでした」
その将校は、自分がウクライナの領土を侵攻しているのだとわかって、恥ずかしさのあまりおもわず顔を覆いたくなったと述べている。
やがてウクライナからの抵抗も力を増してくると、その将校は「最初の1週間ほどはショック状態に陥っていて、何も考えることができなかった」という。
そして、その将校はウクライナの人々がロシアの軍隊に対して敢然と突きつけた拒否を目の当たりにした結果、軍を離れることを決意したのだという。
侵攻開始後も、最初の5ヶ月間は兵士たちも合法的に軍を辞めることが可能だった。だが、2022年にプーチン大統領は部分動員を実施、ウクライナで戦闘に就いているロシア兵は軍を離れることができなくなった。
CNNの取材に答えた将校は2022年9月以前、いまだ合法的な除隊が可能だった頃に軍を離れた。軍からは刑事訴追の可能性を示唆されたが、それでも強行したという。
しかし、このように軍を離れることが可能だったのも昔の話であり、いまロシア兵が戦闘行為を拒否したいと思ったら、軍規に背いて脱走するしかない。
政治メディア「ポリティコ」によると、いまロシア兵が合法的に戦列から離れる手段は戦死、負傷・疾病による後送、収監、高齢による除隊しか存在しないのだという。
複数のメディアが報じているが、ウクライナ高官らはロシア兵の脱走は毎日発生していると主張しているという。だが、あくまでもウクライナ側の主張であることや、ロシア側も当然正確な情報は発表していないことなどから、情報の正確性は判断し難い。
興味深いことに、『モスクワ・タイムズ』紙の2023年12月の記事ではこう述べられている:「ウクライナに送られた部隊から脱走したい、と助けを求めてくるロシア兵の数はここ数ヶ月で倍増する勢いだ」
同紙によると、ウクライナでの戦闘を望まないロシア兵の脱走を支援している団体「Idite Lesom(Get Lost)」は2023年9月から11月にかけて577件の相談を受け取ったとされ、この数は2023年6月から8月までと比べて89%の増加だという。