西側諸国との戦争に備え、軍事力増強をはかるロシアの “欲張った” 動き

エストニア対外情報機関のレポート
ロシアの脅威
レポートの最重要テーマ
「ロシアが選んだ道は、長期的な対決である」
将来的な脅威
今後10年以内に起こりうる?
武器生産能力の向上
軍司令部の再編
「軍団」を新たに導入
NATOとの戦闘への備え
軍の人員拡大計画
「欲張った計画」ではあるが……
「ソ連式の大衆軍隊」
軍国主義の高まり
プーチン大統領の思惑
「集団的な西側」との長期戦
各国要人の指名手配
「これはまだ始まりにすぎない」
エストニア対外情報機関のレポート

エストニアの対外情報機関の最新レポートによると、ロシアは西側諸国との戦争を見越して準備を進めている。その戦争は、今後10年以内に勃発する可能性があるという。

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ロシアの脅威

ロシアが西側諸国にもたらす脅威について、すでに各国の政府高官や政治アナリストたちがさかんに警鐘を鳴らしてきた。エストニアもまた、2024年2月13日発表の「国際安全保障」に関するレポートにおいて、それと同じ姿勢を打ち出したことになる。

写真:Wiki Commons By Sgt. Daniel Cole, Public Domain

レポートの最重要テーマ

そのレポートでは、中国に関する問題や欧州における国際テロリズムなどの概略も述べられている。だが、とくに重点が置かれているのはロシアの動きと、その動きが国際秩序にもたらす脅威についてである。

「ロシアが選んだ道は、長期的な対決である」

『ニューズウィーク』誌によると、エストニア対外情報機関のトップであるカウポ・ロジン(Kaupo Rosin)氏は同レポートの発表後、記者たちに次のように語ったという:「ロシアが選んだ道は、長期的な対決である」

写真:Twitter @kaupo_rosin

将来的な脅威

カウポ・ロジン氏はつづけて、ロシアが西側諸国にすぐに攻撃に打って出るということは「まずありえない」と述べた上で、それでもNATO加盟国はロシアが将来的にもたらしうる脅威について備えておくべきだとした。

今後10年以内に起こりうる?

カウポ・ロジン氏はこうも説明した:「ロシア政府はおそらく、NATOとの戦闘が今後約10年以内に起こるだろうと読んでいる」。同レポートはそこからさらに踏み込んで、今後何が起こりうるか詳しく伝えている。

武器生産能力の向上

同レポートによれば、ロシアではこのごろ、装甲車両や火砲弾薬といった重要な軍備品の生産をふくめ、武器生産能力が大幅に向上している。西側諸国の武器生産がこれまでのペースに留まるならば、いずれロシアの武器生産がそれを上回るという。

軍司令部の再編

また、軍司令部の再編、すなわち2024年にロシアがレニングラードとモスクワに新たな軍管区を設立しようとしていることは、ロシア西部国境地帯の重要性がいや増していることを示しているという。このことから、先日NATOに加わったフィンランドを睨む、軍事態勢強化の狙いがうかがえると同レポートは解説している。

「軍団」を新たに導入

ロシアの動きでもう一つ重要なのは、陸上部隊の構成に軍団(corps)レベルの指揮権を新しく導入したことであると、同レポートは指摘している。このことにより、地上軍の指揮系統は四つのレベルの指揮組織へと移行することになる。すなわち、軍管区・軍(army)・軍団(corps)・師団(division)である。この移行は、ロシア当局の今後の見立てに変更があったことを意味する。

NATOとの戦闘への備え

「ショイグ露国防相の軍改革により、軍団(corps)が正規の軍組織に組み込まれた。すなわちロシア首脳部は、ウクライナでの戦いを続けながらNATOとの戦いにも備えるために、同国がふたたび大衆軍隊(マス・アーミー)のコンセプトに立ちかえる必要があると判断したのだ」と、同レポートは記している。

軍の人員拡大計画

ロシアはまた、軍の人員を2026年までに115万人から150万人規模に拡大する計画を立てているという。エストニア対外情報機関のレポートはこの動きについて、ウクライナとの戦闘が長引いていることを受けて、その人員補充のためとしている。

「欲張った計画」ではあるが……

こうしたロシアの動きを同レポートはまとめ、「端的に言って、軍事力増強をはかるロシアの計画は欲張ったものである。とりわけ目標達成期限の短さと、同国の経済規模や人口から考えてみるならば。それでも、この計画がロシアの好戦的な構えと戦力に寄与し、同国のさらなる軍国化を促し、西側諸国との長期的な対決に至るという(ロシアが明白に辿ろうとしている)道を踏み固めることにつながる以上、エストニアとNATOにとって脅威の種である」と結んでいる。

「ソ連式の大衆軍隊」

同レポートの序文でエストニア対外情報機関トップのカウポ・ロジン氏は次のように予言する。すなわち、NATOはいずれソ連式の大衆軍隊と向き合うことになるだろう、と。このソ連式の軍隊は装備面では西側諸国が差し向ける軍隊に劣るかもしれないが、人的資源が豊富なことからおそろしい敵となりうるのだ。

軍国主義の高まり

ロシアが将来NATOと一戦を交えるとしたら、ロシアはその戦闘にかなりの人員と火力と資源をつぎこむことができると考えられる。だが、カウポ・ロジン氏がそれにも増して憂慮するのは、ロシアが社会のあらゆる階層に軍国主義を吹き込み、ウクライナとその同盟国を打ち負かそうとしているという事実である。

プーチン大統領の思惑

「当初の電撃戦構想は失敗に終わったが、ウクライナで戦闘を続ければ相手方の当事者たちを交渉のテーブルにつかせることができると、ウラジーミル・プーチンはなおも考えている」と、カウポ・ロジン氏は説明する。

「集団的な西側」との長期戦

「私はここで相手方の当事者たちとあえて複数形で呼ぶが、それというのもロシア政府のものの見方では、彼らはウクライナ人だけと戦っているのではないからだ。彼らの選んだ道は、敵対するすべてをあわせた『集団的な西側』との長期にわたる対決である」と、ロジン氏は述べている。

各国要人の指名手配

エストニア対外情報機関の同レポートが発表されたその日、ロシア当局はエストニアのカヤ・カラス首相、タイマル・ペテルコプ国務長官、リトアニアのシモナス・カイリース文化相を刑事事件で指名手配した。『ガーディアン』紙によると、これらの指名手配者には、第二次大戦時のソ連兵をたたえる記念碑をそれぞれの国で撤去したことに関する容疑がかけられているという。

「これはまだ始まりにすぎない」

「これはまだ始まりにすぎない」と、ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は自身のTelegramのチャンネルに投稿している。「ナチズムとファシズムの支配から世界を救った解放者(=ソ連兵)の名誉を毀損する犯罪は、とうぜん訴追されなければならない」

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