西側諸国のウクライナ支援が弱まれば、ロシアに勝利がやってくる?:戦争研究所の報告
ロシアのウクライナ侵攻をきっかけとした戦争勃発から、1年と9ヶ月が過ぎた。ガザ情勢が大きな問題となるなか、ウクライナのゼレンスキー大統領は同国への支援をさらに強化するよう世界に訴えかけている。
アメリカを拠点とするシンクタンク「戦争研究所」のフレデリック・W・ケーガンがは11月15日付の最新レポートを通じ、西側諸国からの支援はウクライナにとって命綱であり、もし支援が弱まればウクライナは敗戦する可能性があると指摘した。逆に、西側からの支援が強化された場合、ウクライナは窮地を脱して勝利をおさめる可能性があるという。
ウクライナ情勢はきわめて不安定な状態にあり、風向きしだいでどちらにも傾く可能性があるとケーガン氏は解説している。戦況はけっして、ウクライナ軍総司令官ヴァレリー・ザルジニーが言うような「動きのない膠着状態」にあるのではない。
ウクライナ軍総司令官ヴァレリー・ザルジニー氏のコメントは、11月1日発行の英紙『エコノミスト』の詳細なインタビュー記事で読むことができる。総司令官はそのインタビューで、「戦線は膠着状態にある」と語ったのだが、戦争研究所のケーガン氏は「膠着状態」ではないと見ているのだ。
もっともザルジニー総司令官は、ウクライナとロシアの双方が相手を出し抜けずにいる要因は数多くあるとしており、この分析については戦争研究所のケーガン氏も同意し、自らのレポートで言及している。
ザルジニー総司令官によれば、戦争が膠着状態になった要因は、まず、戦場におけるドローンの普及がロシア軍の電子戦システム及び発達した防御ネットワークと組み合わされたことだという。また、ウクライナ軍の抱える大きな弱みもひとつの要因となっている。
ウクライナ軍の防空能力は限られており、長距離攻撃能力も決して高くない。このことは、保有する戦車や装甲車両の少なさとあいまって、攻撃のために部隊を大きく動かす機動作戦を行いたくとも行えない状況を作り出しているのだ。
このような状態を打破するには新しいテクノロジーを導入するよりほかないとする見解とは異なり、ケーガン氏は西側諸国による支援の動きいかんで、戦況がロシア有利となるかウクライナ有利となるかが決まってくる可能性があると見ている。
問題を抱えているのはウクライナ側だけではない。ロシア軍もさまざまな課題に直面している。なかでも頭痛の種は、前線の地区ごとに戦力にばらつきがあることである。ロシアはたしかにウクライナの攻撃を封じることができるが、逆にロシアの攻撃も、ウクライナに封じられているのだ。
たとえば、ロシアの電子戦システムは強力な兵器だが、前線全体に過不足なく配備されてはいない。その隙をついてウクライナはドローン部隊を使い、ロシア軍による攻撃を妨害することに成功していると戦争研究所のケーガン氏は指摘している。
ドローンではなく有人航空機を用いた作戦行動において、ロシアはたしかに優位な立場にあり、ウクライナの前進をある程度阻むことはできている。しかし、ロシアの脅威にさらされている地区にウクライナが援軍を配備するのを防いだり、ロシア機械化部隊のための進軍ルートを開いたりするほどには強力ではないのだとケーガン氏は指摘している。
ロシアの工業生産能力は現在、一連の戦闘によって失われた戦車や装甲車両をじゅうぶんに穴埋めするほど高くはなく、まさにこのポイントにおいて、西側諸国の支援がウクライナにとって大きな意味を持つとケーガン氏は論じている。
「西側諸国の武器庫にはすでに豊富な兵器類があり、それを使えばウクライナの兵士たちが直面している難題のほとんどすべてに対処することができる」とケーガン氏は述べ、ロシアの侵攻を阻んでいる現在のウクライナの能力は、西側諸国からの支援と兵器とにかかっていると付け加えた。
さらにケーガン氏は、「防空、火砲、そして対装甲システムは、ウクライナにとって不可欠だ」とも述べている。こうしたシステムをウクライナは自力で賄うことができないが、西側諸国の武器支援があることで、ロシア軍は大規模な戦闘作戦を実施できずにいるという。
つまり、ウクライナの勝敗は、西側諸国の支援次第なのだ。支援が滞るようなことがあれば、ロシアの攻撃を止め続けることができなくなり、プーチン大統領の勝利につながる可能性がある。
逆に、西側諸国がウクライナ支援をさらに拡大し、すでに自国で保有している武器を提供すれば、戦況はウクライナ有利になり、ウクライナ軍総司令官によれば目下膠着状態にある戦争も、終わりを迎える可能性がある。
ケーガン氏は、ロシアの電子戦能力を破ることのできる装備をはじめ、空軍の装備と装甲車や戦車、地雷除去装備などが、ウクライナが膠着状態を打開するために西側諸国が供与すべき主要な兵器となるだろうと指摘している。
「戦場におけるウクライナ軍の機動性を復活させるには、西側の武器庫にすでに準備されている兵器や防衛システムをウクライナ軍に積極的に供与しなければならない」と、ケーガン氏は結論づけている。