長引くロシアによるウクライナ侵攻:ゼレンスキー大統領が和平を選択する可能性はあるか
ウクライナ情勢に詳しい匿名の米政府筋によると、欧州のウクライナ支援国の一部が水面下でウクライナ政府に対してロシアとの和平交渉のテーブルに付くための条件などの折衝を行っているという。NBCニュースが11月3日に報じた。
その米政府筋によると、やり取りされた内容には和平のためにウクライナがどこまで譲歩できるかというものも含まれたという。だが、ウクライナのゼレンスキー大統領は欧州委員会委員長ウルズラ・フォン・デア・ライエンとともに開いた記者会見でこの報道内容を直ちに否定している。
政治メディア『ポリティコ』によると、ゼレンスキー大統領は記者会見でこう語ったという:「アメリカやEU諸国などの同盟国からはいかなる和平圧力も受けていない。ロシアとの交渉についたり、なにか譲歩せよといった圧力は皆無だ」
そのような圧力は「これまでもなかったし、これからもあり得ない」とゼレンスキー大統領は断言した。同時にフォン・デア・ライエン委員長もこの見解を支持し、ウクライナの未来は(EUでもアメリカでもなく)ウクライナが決めるという、委員会の従前の立場を再確認した。
フォン・デア・ライエン委員長はこう述べている:「ウクライナは主権国家であり、その主権を十全に行使する」この見解は2022年12月にウクライナが提示した停戦交渉の条件に呼応するものでもある。
だが、仮にウクライナがなんらかの圧力を受けていたとして、それが情勢に影響する可能性はあるのだろうか。遅くとも2023年夏以来、ゼレンスキー大統領はロシアが敵対的な行動を収めない限りいかなる和平も不可能だという立場を堅持しており、外的な圧力が及ぼし得る影響は少なそうだ。
ゼレンスキー大統領がロシアとの和平交渉の前提条件を提示したのは2023年7月、スペインのペドロ・サンチェス首相がキエフを訪問した際のことだ。その時は、まだ和平交渉が直ちに可能となる状況ではないとされていた。
ゼレンスキー大統領はロシアの軍隊がウクライナの領土にとどまり続ける限りいかなる和平交渉も行うことはできないという立場を明確にし、たとえ今回の反転攻勢でロシア軍がクリミア半島の国境地帯まで撤退したとしても不十分であると述べている。
『ウクライナ・プラウダ』紙はゼレンスキー大統領のコメントをこう伝えている:「現在の戦闘の状況や、外交的な解決の可能性についてですが……たとえば、侵攻が始まった2022年2月24日の国境までロシア軍が撤退したとしましょう」
ゼレンスキー大統領はこう続けている:「それでも、2月24日時点の国境は本来の国境ではありません……この点を繰り返し強調しておきたいのですが、ウクライナとしては真に本来の国境、国際法に基づいた国境が取り戻されるのならば、外交的な解決を模索する用意はあります」
このコメントは、これまで何ヶ月もの間ゼレンスキー大統領が示してきた態度とも一貫している。それはすなわち、国際的に認められた国境までロシア軍が撤退しない限り和平交渉は不可能だという立場だ。
ゼレンスキー大統領はクリミア半島の奪還に関しても非常に強硬な姿勢を保っており、必要であれば武力を用いてでもロシアから取り返すという意志を表明している。2023年1月のダボス会議にリモート出席した際もその点を強調し、世界的な援助を求めている。
ゼレンスキー大統領はダボス会議でこう発言したという:「クリミアは我々の土地、我々の領土です。海も山も我々のものです。武器をください、それを使って自分たちのものを取り戻します」米政治紙『ザ・ヒル』が報じている。
同紙の当時のコメントでは、アメリカ世論は当初クリミア奪還を狙うウクライナへの武器供与に対しては戦争のエスカレーションを警戒し消極的だったが、その懸念は薄れつつあると言われている。
だが、『ニューヨーク・タイムズ』紙が2023年1月に出した報告によると、米政権上層部の間では認識が変わりつつあり、バイデン政権は現在ではクリミア半島が将来の和平交渉における重要なカードとなり得ると考えているのだという。
ロシアによるクリミアの実効支配を脅かすことができれば交渉における大きなカードとなっただろうが、現実には今回の反転攻勢でもロシア軍の戦線を大きく切り崩すことはできず、2022年夏ほどの大きな成功は見られなかった。
反転攻勢が大きな成功を収めない限り、ウクライナは交渉において弱い立場に置かれてしまうだろう。だが、西側同盟国による支援が継続する限り、ゼレンスキー大統領が不本意な和平を余儀なくされることはないというのが現在のウクライナの立場だ。とはいえ、戦争ではなにが起こるかわからないというのも事実ではある。