2023年「世界で最も生活費が高い都市」とは?
昨年11月末、英『エコノミスト』誌が2023年「世界で最も生活費が高い都市(Worldwide Cost of Living)」ランキングを発表した。本調査は同誌の調査部門「エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)」によって、2023年8月14日から9月11日にかけて実施された。
本調査は主要173都市を対象に、200種類以上の商品やサービスの価格を調べて生活費を比較し、ニューヨークの物価を「100」(WCOL指数100)として数値化したものだ。
2023年のランキングトップはスイスのチューリヒとシンガポールとなった。また、最も生活費の高い上位10都市のうち4つがヨーロッパ諸国となり、調査を行ったEIUは、食料品、衣料品、日用品のインフレ、さらにユーロ高がこのエリアの物価上昇につながったと分析している。
EIUの調査によれば、世界の主要都市の物価はこの1年で現地通貨ベースで平均7.4%上昇した。昨年の物価上昇率8.1%より落ち着きを見せたとはいえ、2017年から21年に比べれば依然として高い上昇率となっている。
昨年に続き、ベネズエラのカラカスはランキングから除外された。カラカスではハイパーインフレが続き、ランキングの指標となる商品やサービスの価格上昇率が昨年比450%となっている。
昨年ランキングから除外されたウクライナの首都キーウは今年の調査対象に加えられた。2021年の118位から14ランクダウンし、今年は132位となっている。なお、世界で最も生活コストの低い都市は、2011年から内戦が続くシリアのダマスカスだ。
今回順位を下げた都市には、パンデミック後の景気回復で後れをとった中国の4都市(南京、無錫、大連、北京)が入っている。中国では人民元が下落したほか不動産市場も危機に直面し、『ビジネス・インサイダー』は数十年にわたる中国の成長が終わりを迎えつつあるとしている。
『ビジネス・インサイダー』等が伝える通り、西側諸国の制裁によりルーブル安となったロシアの都市も順位を下げた。モスクワは昨年から105ランク落として142位、サンクトペテルブルグは74落として147位となった。
日本は円安の影響が大きく、2021年に10位だった大阪は昨年に43位、今年は70位と大きく順位を落としている。東京も2021年に13位、昨年は37位、今年は60位と大幅にランクダウン。世界基準に比して生活費の低い都市となりつつある。
ニュースサイト「ブルームバーグ」によれば、EIUの生活費ランキング責任者であるウパサナ・ダット氏は次のようにコメントした:「2021年から22年にかけて物価上昇をもたらした供給サイドのショックは、中国が2022年後半に新型コロナウイルス関連の規制を解除して以来落ち着きました。2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻後に見られたエネルギー価格高騰も緩和されました」
さらに、「2024年もインフレはさらに減速を続けると予測しています。ただし、武力紛争の激化によるエネルギー価格の高騰や、エルニーニョなど気象リスクによる食料品価格の上昇といった上揺れリスクはあります」とした。では、「生活費の高い都市」トップ10をみてみよう。
長年にわたり本ランキングの上位につけてきたサンフランシスコ。高額所得者が多く住んでおり、住宅価格をはじめとして物価が高いことで知られる。
イスラエルの首都テル・アビブは2021年にトップとなったが2022年に3位、2023には9位と徐々にランクを落とした。10位以内を維持しているが、今年の調査が行われたのはガザとの戦闘が始まる前の8~9月であり、現在は物価に変動が出ているとみられる。
『フォーブス』誌によれば、デンマークの首都コペンハーゲンは世界で最もワークライフバランスが良い上に高収入で、国民の幸福度指数も高いとされる。昨年そして一昨年も10位以内にランクインした。
2020年に1位となったパリ、「最も生活費の高い都市」トップ10の常連となっている。仏紙『エコノミ・マタン』は、「花の都」の不動産、レストラン、サービス部門の物価の高さを指摘し、データベースサイト「LivingCost.org」のデータをもとに、パリで1人暮らしをするには毎月1,958ユーロ(約31万円)、4人家族が暮らすには4,954ユーロ(約77万円)が必要としている。
ロサンゼルスは昨年から2ランク落として6位。データベースサイト「LivingCost.org」によればロサンゼルスの平均住宅価格は90万ドル(1億3千万円)を上回る。この都市で家族が"快適に"暮らすにはそれ相応な給与が必要となりそうだ。
2020年と2021年にパリと並び「最も生活費が高い都市」1位となった香港。2022年11月に4位、今回は5位とランクダウンしたがトップ10内の地位を維持した。中国各都市や大阪や東京が大きく順位を落としたのとは対照的。
昨年シンガポールと並んでトップとなったニューヨークは3位に後退。スイスのジュネーブもニューヨークと同率(指数100)で3位となった。オンライン版「CNN」は、「ニューヨークの物価は昨年比で1.9%上昇、トップから後退したものの全米で最も生活費の高い都市となっている。ジュネーブは生活費は高いが、EIUの別の調査によればコペンハーゲンやチューリヒと並び最も住みやすい都市の一つとされる」と指摘した。
昨年はシンガポールとニューヨークがタイで1位、今年はシンガポールとジュネーブがトップとなった。シンガポールは資源が少なくエネルギーを輸入に頼ることから交通費と衣料品が高価格となり、11年間で9度、本ランキングの1位となっている。チューリヒは3年ぶりの1位で、スイスフラン高のほか食料品、日用品、レジャー費用の高さが反映されたとEIUが分析している。