2023年に実現された、環境保護における大きな6つの前進とは
2023年は激動の年で、ともすれば暗いニュースばかりが目についたかもしれない。だが、そんな中でも多くの著しい進歩があったこともまた事実。たとえば環境問題という観点からも、多くの明るい未来を感じさせるニュースがあった。
日々危機感が募っていく気候変動や環境問題だが、2023年にはそういった問題に対処し、より持続可能性の高い未来を築くための大きな進歩が実現している。環境問題に関する明るいニュースを6つ、チェックしてみよう。
2022年にアメリカ議会を通過したインフレ抑制法では、温室効果ガスの排出削減やクリーンエネルギーや電動化の推進に3690億ドル(約53兆4000億円)を費やすとされた。地味な名前にそぐわず、アメリカ史上最大の環境問題への支出となる。
イギリスで気候変動問題の諮問役も務めた科学者、デヴィッド・キングによると、環境問題に直接対処しようとすると政治的な支持が集めにくいので、インフレ対策の緊急法案という形で間接的に支出を定めたのだという。BBCが伝えている。
BBCによると、法案の通過以降、製造過程での再生可能エネルギー利用に民間企業が1100億ドル(約16兆円)以上を費やし、そのうち700億ドル(約10兆円)が電気自動車関連に用いられたという。専門家の分析では、この法案のおかげで2035年におけるアメリカの温室効果ガスの排出量は2005年比で43~48%削減されると言われており、国の掲げる削減目標に近づいたことになる。また、同法はネイティブ・アメリカンのコミュニティがある土地における再生可能エネルギー利用も促進したと考えられている。
2023年10月、欧州で炭素国境調整メカニズム(CBAM)という画期的な政策が実施された。『Atmos』誌が伝えている。
CBAMの狙いは、欧州の企業が環境汚染につながる製品を輸入しないようにすることにある。EU域内にそれらの製品を輸入した企業はそのぶん課税されるのだ。
オランダのライデン大学で環境問題を研究するポール・ベアレンズ博士は、EUにおけるこういった仕組みが全世界で二酸化炭素の排出にコストを課すことを促すよう望んでいるという。ベーレンスは『Atmos』誌にこう語っている:「この政策は非常に大きなポテンシャルを持っていると思います。ひとつの規制に過ぎませんが、国際取引のあり方を一変させる可能性があります」
2022年、EUはコーヒーやカカオ、大豆などを含む製品が森林破壊に関与している場合輸入を禁じるという合意に到達した。ニュースチャンネル「France 24」によるとこの合意に基づく法が2023年6月に施行され、EUの加盟国27カ国で「森林破壊フリーなサプライチェーン」を構築することを目指しているという。この規制はグリーンピースや世界自然保護基金などの環境団体からも画期的なものとして称賛されている。
同法のもと、EU域内の輸入企業はその商品が2020年12月31日以降森林破壊に晒されていない地域からのものであることを証明せねばならないうえに、輸入元の国における規制にも従う必要がある。この法によって影響を受けるのはパーム油や家畜、大豆、コーヒー、カカオ、木材、天然ゴム及びその関連商品(牛肉や家具、チョコレートなど)だ。
この規制が成立した背景には、多くの国で違法に生産された製品が大規模な森林破壊を引き起こしているという現実がある。そういった環境破壊の影響を受けているのはブラジルやインドネシア、マレーシア、ナイジェリア、コンゴ民主共和国、エチオピア、メキシコ、グアテマラなどの国々だ。
2023年3月、20年におよぶ協議のすえ、画期的な条約「国連公海条約」が合意に至り、9月には70近い国々が批准した。公海はいままでわずか1%ほどしか環境保護政策の対象となってこなかったが、この条約によっておよそ30%が海洋保護区として扱われるようになった。
国境外海域生物多様性政府間会議の議長を務めるレナ・リーは3月、「船は岸についた」と述べて交渉の妥結を宣言した。BBCが報じている。
国連によると、国連公海条約は海洋保護区を設定する枠組みを制定、2030年までに世界の海の30%を保全するという目標に向けての大きな一歩となるという。
OECD世界プラスチック白書によると世界では毎年約4億6000万トンものプラスチックごみが排出されており、そのうち22%が環境に放出されたり、管理されない埋立地や単純な焼却炉などで不適切に処理されたりしているという。
プラスチックを使い捨てにする風潮には近年ますます批判が高まっており、国連環境総会では2022年に世界プラスチック条約の制定に向けて交渉を開始、プラスチック汚染問題に取り組む姿勢を見せた。総会では2024年末までの条約制定を目標としているが、いまのところ交渉の進捗は限定的なものにとどまっている。だが、このように国際的な枠組みの制定が遅々として進まない状況を受けて市民が立ち上がり、個々の生産者を訴追するという方法を取り始めている。
2023年初頭、飲料水や乳製品のメーカーである大企業ダノンと、ペプシやドリトスなどのブランドを擁するペプシコがプラスチック汚染を理由として訴訟を起こされた。
環境保護法曹団体「ClientEarth」のウェブサイトによるとダノンを訴えたのは3つの環境保護団体であり、同社は争う姿勢を見せているという。ダノン側はこれまで行ってきたプラスチック削減の試みを強調し、リサイクルを推進しごみの回収システムも構築、代替素材も積極的に採用してきたと主張している。一方、ペプシコを訴追したのはニューヨーク州であり、同州を流れるバッファロー川に対するプラスチック汚染と生物多様性の破壊が追求されている。
2023年、ブラジルのアマゾン川流域は歴史的な干魃に見舞われてしまったが、熱帯雨林に関しては良いニュースもあった。ブラジル国立宇宙研究所が、5年連続でアマゾンの森林破壊率が減少したという観測結果を発表した。『ニュヨーク・タイムズ』紙が報じている。
関連記事:アマゾン史上最悪の旱魃が進行中
ブラジル政府は2030年までに森林破壊を食い止めるという公約を掲げており、違法な伐採業者や生産活動への取り締まりを強化している。
さらに、熱帯雨林の1割ほどが存在するコロンビアでも2023年9月までの時点で森林破壊率が7割低下したと同紙が報じている。
オランダのヴァーヘニンゲン大学で森林環境やその管理を研究しており、アマゾン研究科学委員会委員でもあるマリエロス・ペニャ=クラロス博士によると、コロンビアで状況が改善したのはコロンビア政府が「監視して罰則を課すだけでなく、生産方法のオルタナティブも提示する」というアプローチを採ったことにあるという。BBCが伝えている。