10周年を迎えた中国の「一帯一路」構想とは:アジアとヨーロッパを結ぶ計画はどこへ
2023年10月18日、中国の「一帯一路」構想が開始から10年を迎えたことを記念するフォーラムが行われ習近平国家主席が演説、構想の経過を称賛した。ロイター通信が報じている。
画像:同フォーラムで握手するオルバン首相(左)とロシアのプーチン大統領
だが、同じくロイター通信によると、当初はアジアとヨーロッパを結ぶという計画のもとに発足した「一帯一路」構想だったにもかかわらず、欧州連合の高官はフォーラムを欠席。EU諸国から出席した首脳はハンガリーのオルバン首相だけだったという。
拡大を続け習近平国家主席も自賛する一方で、西欧からは警戒もされていることが浮き彫りとなった「一帯一路」構想。そもそもいったいどのような目的で、なにを行っているものなのだろうか。10年間の経過とともに振り返ってみよう。
習近平国家主席が初めて「一帯一路」構想を明らかにしたのは国家主席に就任後すぐの2013年9月、カザフスタンのナザルバエフ大学で行われた講演でのことだった。
画像:Beshbarmak, CC BY-SA 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0>, via Wikimedia Commons
「一帯一路」構想の基本は巨大な物流ルートの構築だ。かつてユーラシア大陸の東西を結んだシルクロードの現代版を築くという発想が根底に存在し、その主要ルートは「一帯」と「一路」のふたつから構成される。ひとつめは中国からロシアや中央アジアを経由して欧州に至る陸路「シルクロード経済ベルト」(一帯)だ。
画像:Lena Appenzeller, Sabine Hecher, Janine Sack, CC BY 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by/4.0>, via Wikimedia Commons
そしてもうひとつが東南アジアやアラビア半島、アフリカ東岸を結ぶ海路「21世紀海上シルクロード」(一路)だ。この陸路と海路のふたつを柱として周辺地域のインフラ整備などを行い、経済活動を促進するというのが「一帯一路」の巨大な構想だ。
画像:Aamir Khokhar PK, CC BY-SA 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0>, via Wikimedia Commons
日本総研が発表しているレポートでは、2013年にこのような巨大な構想が提示された背景には中国が当時抱えていた過剰な国内生産物を海外に輸出したいという狙いがあったと言われている。
2008年の北京オリンピックに向けて国内のインフラを整備した中国だったが、その年の9月にいわゆるリーマンショックが発生、世界的な不況が到来する。
画像:东林, CC BY 2.5 CN <https://creativecommons.org/licenses/by/2.5/cn/deed.en>, via Wikimedia Commons
そんな中、中国はかねてから進めていたインフラ整備に景気刺激策として巨額の資金を投入した。その結果不況の影響は抑えられたものの、今度は過剰な設備投資による余剰生産が問題化してきた。
当初は近隣諸国に向けた外交政策と見られていた「一帯一路」構想だったが、中国国内のこのような事情を受けて、余剰在庫問題解消のための景気刺激策としての性格を強めていったと日本総研のレポートでは述べられている。
そうして実行された実際のプロジェクトには、例えば中国南部の都市昆明と隣国のラオスの首都ビエンチャンを結ぶ高速鉄道の敷設がある。NHKによると、それまではトラックで2日かかっていた道のりが15時間に短縮され、中国向けにドリアンなどの生鮮食品の輸出が増えているという。
画像:Embassy of Timor-Leste in Vientiane, Public domain, via Wikimedia Commons
だが、プロジェクトが拡大するにつれて問題も顕在化してきた。一帯一路プロジェクトの一環として融資を受けた国の多くが期限内に返済できず、中国による救済融資の額が大幅に増加しているのだ。『フォーブス』誌が伝えている。
さらに、中国はそのような債務の繰延などと引き換えに開発したインフラから自国に有利な条件を引き出しており、このやり方が「債務の罠」として批判されることも多い。
例えば、AFP通信によるとスリランカは中国から融資を受けてハンバントタ港などの大規模なインフラを整備したが投資資金を回収できず、2017年に港の運営権を中国に売却。さらに、対外債務が増えたことで2022年には事実上のデフォルトに陥っている。
画像:スリランカの旧議会
問題は経済的なものだけではない。中国が一帯一路構想のもとに開発を進めている地域は軍事的な要衝に位置することが多く、背後にうかがえる安全保障戦略への警戒も高まりつつある。先述のスリランカの場合も、中国のインド洋進出の足がかりにされるのではないかとアメリカやインドが懸念を示していたとAFP通信が報じている。
画像:Quitsky, CC BY-SA 3.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0>, via Wikimedia Commons
近年では一帯一路構想が北極海やラテンアメリカにも拡大してきたこともアメリカが警戒感を強めている理由だ。中国のこのような動きに対応するために、アメリカはラテンアメリカ諸国との関係強化を計ったほか、G7主導で途上国のインフラ開発を支援する制度も発足している。NHKが伝えている。
このように、ユーラシア大陸全体を結ぶ物流網の構築として始まった一帯一路構想だったが、近年は中国の勢力拡大政策と見られて警戒感も高まっている。だが、中国によるこのような動きが可能となったのは開発途上国の状況が放置されてきたからだとも言える。
現在、中国に対抗する形で欧米主導の支援の枠組みも整備されつつあることは、いわば覇権争いを奇貨として国家間の格差解消が進められているのだと評価できるのかもしれない。
画像:Chrionexfleckeri1350, CC BY-SA 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0>, via Wikimedia Commons