ウクライナ当局がロシア軍の死傷者数を発表:8月時点で60万人を超える
ウクライナ参謀本部はロシア軍が失った人員および装備に関する情報を日々、更新しているが、8月19日にはロシア軍の死傷者が60万470人に達したと発表。
ロシア軍の死傷者数は今年5月に50万人を突破したとされていたが、ウクライナ軍参謀本部の発表が正しいとするなら、わずか3ヵ月半でさらに10万人を失ったということになる。しかし、こういった数字はどの程度、正確なのだろうか?
ウクライナは戦争の当事国であり、同国が発表するデータを鵜呑みにするわけにはゆかない。とはいえ、ウクライナ当局の発表がそれほど誇張されたものではないことを示す証拠も少なくないのだ。
また、『キーウ・インディペンデント』紙のクリス・ヨーク記者はウクライナ参謀本部のデータについて、「戦死者や負傷者、行方不明者、捕虜」などがまとめて含まれているというのが「大方の見方」だと今年5月に書いている。
ヨーク記者によれば、ウクライナのゼレンスキー大統領は2024年2月にロシア軍の戦死者数についておよそ18万人と発表したが、西側諸国の情報機関もこの数字はあり得ないとは言えないと見ているとのこと。
5月25日には、ウクライナ軍参謀本部が過去24時間でロシア軍は1,140人の兵士を失い、開戦以来の人的損害は50万80人に達したと発表。当初はありえない数字だと見られていたが、直後に英国とフランスの当局が同じような推計を公表することとなった。
また、4月27日にウクライナ参謀本部がロシア軍の人的損害について46万5,054人に達したと発表した際には、英国のレオ・ドチャーティ国防担当閣外大臣(当時)がほぼ同じ数字を独自に公表している。
軍事情報サイト「UK Defence Journal」によれば、同大臣はロシア軍の損失に関する質疑応答の中で、「ロシア兵およそ45万人が戦死または負傷し、さらに数万人が脱走したと見られます」とコメント。
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ここ最近、ロシア軍の人的被害が急増している背景には、ウクライナ東部の前線で攻勢を強めていることがあるようだ。ロシア軍は今年4月以来、ドネツク州チャシウ・ヤルの占領を試み続けているほか、ハルキウ州にも新たな攻撃を仕掛けた。
一方、フランスのステファン・セジュルネ外相は5月3日、ロシア独立系の『ノーヴァヤ・ガゼータ・ヨーロッパ』紙に対し、フランス当局がロシア軍の戦死者15万人、人的損害は合計で50万人と見積もっていることを語った。
フランス当局による推計はゼレンスキー大統領やウクライナ参謀本部の発表からさほどかけ離れたものではない。また、前出のクリス・ヨーク記者によれば、2023年12月12日に米国が公表したデータでは、死傷者数が31万5,000人と見積もられていたが、当時、ウクライナ参謀本部が発表した数字は34万650人であり、大きな差はない。
『ニューズウィーク』誌のエリー・クック記者いわく:「2023年初頭にロシア軍が行ったドネツク州バフムートに対する攻撃や、ウクライナ東部の戦略都市アウディイウカの占領など、戦闘が長期化する場面では、死傷者数が急増するのが常です」
英国防省は今年3月、ロシア軍によるアウディイウカ攻勢がピークに達した2月に、同軍が1日あたり983人もの兵士を失っていると発表。これは開戦以来、最悪のペースだったが、ロシア軍はその後、この記録をさらに更新してしまうこととなった。
英国防省によれば、ロシア軍が被る1日あたりの人的損害が増えているのは、ロシア当局が「大規模な消耗戦にのめり込んでいる」ためだという。ちなみに、このような戦術は著しいコストがかかる一方で、大きな戦果を挙げることが判明している。
英国防省いわく、「人命という面ではコストが大きいが、結果として、前線全体でウクライナ軍陣地に対する圧力を高めることができている」そうだ。ロシア軍の死傷者数が一気に60万人を突破したのは、このような戦術によるところが大きいのだろう。
英国防省は今年5月31日に、ウクライナにおけるロシア軍の死傷者数が50万人を突破したことを発表し、同月は1日あたりの人的損害も1,200人に上ると推計した。これは3月時点の推計を遥かに上回る数字だ。
同国防省のアナリストらはロシア軍が出し続けている甚大な損害について、クレムリンの戦略によるものだと指摘:「死傷率の上昇は、ロシアが前線の広い範囲で消耗戦を続けていることを反映している可能性が高い」
英国防省はさらに、「ロシア兵の大部分は限定的な訓練しか受けていない可能性が非常に高い。彼らは複雑な作戦を遂行することができないため、小規模だがコストの大きい波状攻撃によって、ウクライナ軍の防衛力を削ごうとしているのだ」と解説した。