かつてないほど南極の海岸線に迫る砕氷調査船が遠征中
ブラジルをはじめとする7か国から集結した研究者たちが、類を見ない南極調査を実施している。南極大陸を端から端までカバーする大がかりな遠征で、海岸線にもこれまでになく接近するという。
この遠征調査は2024年11月22日に始まり、2025年1月25日に全行程を終えることになっている。およそ60日間の航海だ。
BBCの報道によると、研究者たちはおよそ2万kmの距離を移動するという。途中、南極大陸の凍てついた大地16ヶ所に船を寄せて、試料やデータを集める予定だ。
ブラジル国営通信社「Agência Brasil」によると、この遠征調査には61人の科学者が参加しているという。うち27人はブラジルの公立大学9校を代表する研究者で、それに加えてロシア、中国、インド、アルゼンチン、チリ、ペルーからも研究者が調査船に乗り込んでいるとのこと。
この調査計画をコーディネートするのは、自身も研究者で極地探検家のジェファソン・カルジャ・スモイス(Jefferson Cardia Simões)である。リオ・グランデ・ド・スル連邦大学に所属するスモイス教授は、さしずめ現代のアーネスト・シャクルトン(1874年生〜1922年没、南極に3度遠征したイギリスの英雄的探検家)といえよう。
「当初、私たちはより多くの研究者にプロジェクト参加を呼びかけるつもりでした。しかし、昨今の政治情勢にかんがみ、今回の調査はBRICSの国々とその他南米諸国とで行うものになりました」と、同教授はBBCのインタビューで語っている。
CNNの報道によると、船舶による南極調査はこれまでに例があるものの、港のない南極大陸の海岸線に調査船がこれほど接近するのは初めてのことだという。今回の調査では、南極大陸のさまざまな地点で試料とデータを収集する予定だ。
今回の調査の目的の一つは、収集したサンプルやデータを詳細に分析し、南極の氷の動きを解明することである。また、南極地帯における気候変動のインパクトを評価することも任務の一つだ。
今回の調査には、三つの重要なテーマがあるという。その一つが、南極の氷帽がどのように形成・発展してきたのかを探るというものだ。
写真:Unsplash - Paul Summers
「第一に、わたしたちは南極大陸を覆っている氷床の安定度を知りたいと思っています。予測によれば、今後10年間は、南極大陸の氷床が、海水面上昇の主要な動力となります」と、スモイス教授はBBCに対して語っている。
二つ目のテーマは、南極大陸の気候の変化、そして南極海の海水温である。
南極付近では、大気も海水も温度が上昇しており、さらに氷河が溶けることで、海水の塩分濃度が低くなるという問題も起きているという。
「南極大陸は、世界の気候の調整役という大きな役割を果たしています。そのため、南極における変化の影響は地球全体に波及します」と、フルミネンセ連邦大学教授のローズマリー・ヴィエイラは、「Agência Brasil」に対して説明している。
BBCによると、気候に絡む懸念は他にも、海洋のpH(水素イオン濃度指数)が酸性に傾いていることが挙げられるという。南極付近では海水温が低く、そして冷たい水は温かい水より二酸化炭素が溶け込みやすい。二酸化炭素が水に溶けると、二酸化炭素(CO2)と水(H2O)との化学反応によって水素イオンが発生し、pHが上がる(酸性に傾く)のだ。
専門家たちの関心は、この「海洋酸性化」が今まさにどのような影響を海洋生態系にもたらしつつあるのか解明することにある。特に、植物プランクトンへの影響を見定めることが今回の課題である。
三つ目のテーマは、南極における大気汚染とマイクロプラスチックによる汚染度の調査である。この調査のため、大気の常時モニタリングを行うほか、採取した雪の試料を成分分析にかけ、マイクロプラスチックやその他の汚染物質をどれほど含んでいるか調べる予定だと「Agência Brasil」は報じている。
「Agência Brasil」によると、研究者たちが乗り込んでいるのは、ロシア北極・南極研究所からやってきた砕氷船である。こうした科学調査船は、当艦を含め世界にわずか数隻しか存在しないという。全長130メートルを超えるこの巨大な船が、海に浮かぶ厚い氷床を割って進み、南極大陸の海岸線に可能な限り接近するのだ。
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