日本酒輸出に「待った」をかけたEU包装規制、回避の方向へ
3月4日、EU理事会と欧州議会で「包装・包装廃棄物規制案」の最終案が合意に至った。当初はこの規制案により、日本からEUへの日本酒の輸出が困難になるかもしれないとして懸念を呼んだが、今回まとめられた案ではそのような事態は免れた。読売新聞が報じている。
そもそも、今回話題となったEUの「包装・包装廃棄物規制案」とはどのようなもので、なぜ日本からの輸出が問題となったのだろうか。経緯と内容をチェックしてみよう。
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欧州では2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする「欧州グリーンディール」政策の一環としてリサイクルに関する目標が定められており、それに対応するための法規制も実施されてきた。
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しかし、かねてから多くの加盟国でこの目標の完全な達成が困難な状態にあることが指摘されており、追加の規制の必要性が訴えられていた。
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たとえば、2023年に発表された統計では、2021年のEUのひとり当たり包装廃棄物排出量が過去最高となったとされている。日本貿易振興機構(JETRO)のレポートが伝えている。
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今回の「包装・包装廃棄物規制案」はそういった状況を受けて検討されていたものだ。2022年11月に出された同規制案の概要を伝えるプレスリリースでは、欧州では現在包装に由来するごみがひとり当たり毎年180kg出ていると指摘。2030年までにすべての包装物をリサイクル可能にするという目標を掲げている。
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その規制案では包装廃棄物を段階的に削減していくための目標値が設定されたほか、使い捨てのパッケージなどの利用も禁止する方針が盛り込まれていた。
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たとえば、使い捨ての小型シャンプー容器やファストフード店で使われる使い捨ての食器類の使用が禁じられるほか、飲料用の瓶や缶などもリサイクル可能にすることが義務付けられた。
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そこで問題となったのが日本酒を入れるためのガラス瓶だった。輸出先の欧州現地では使用後の瓶を回収・再利用するためのコストが非常に高いため、当初規制案に適合することが難しかったのだ。
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この規制案はワインやウィスキーなどの蒸留酒にも影響を及ぼし得るものだったが、そういった品目は影響の大きさを鑑みて除外されていた。だが、輸入品である日本酒は除外対象となっておらず、当初案のままでは欧州への輸出が困難になると予想された。
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こういった状況が明らかとなって以降、日本政府は外交攻勢をかけて日本酒も除外対象に含めるよう働きかけたという。読売新聞などが報じている。
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そして政府の働きかけが功を奏して、3月4日に合意に至った案では日本酒も規制対象外とされた。今後、この規制はEU理事会および欧州議会での承認を経て2030年から適用される見込みだ。
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日本酒の輸出が困難になる事態は免れたとはいえ、日本からの輸出にまったく影響がなかったわけではない。たとえば食品包装に使われるフィルム類も規制対象になる見込みだ。
朝日新聞によると、現在日本からの食品輸出に多く使用されている「多層フィルム」はリサイクルが困難とみなされる可能性が高いという。「多層フィルム」を用いて輸出されている食品としてはマヨネーズや和牛が挙げられており、今後はなんらかの対応を迫られそうだ。
JETROのレポートによると、日本からEUへの食品類の輸出は増加傾向にあるという。2022年のEU向け輸出額は前年比8.2%増の680億円とされており、好調なだけに包装規制による影響も無視できない。
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環境問題への対応は全世界的に喫緊の課題であり、多くの産業で各地の規制への対応が要求されている。環境保護とビジネスとのバランスを適正に保つためにも、各国での法整備の動きを注視していく必要があるだろう。
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